データを用いたアプローチで希少疾患の潜在患者を発掘/MDMD2024Summerレポート
2024年6月5日開催のMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2024 Summerの講演のセッション「希少疾患の『診断もれ』に迫る: ビッグデータだから描ける潜在患者の実像とは」では、株式会社JMDC 製薬本部の北川諒氏が希少疾患でのRWD活用のヒントを解説しました。
希少疾患の誤診や確定診断の難しさといった課題解決に欠かせない「潜在患者の発掘」につながる、定量分析やRWDを用いたアプローチ手法をまとめました。
調査で見えてきた希少疾患領域の現状とデータ活用のポイント
希少疾患を有する患者が確定診断を受けるまでの平均期間は2年であり、誤診となる患者の割合は35%とされています。希少疾患における診断の遅れや、確定診断の難しさは深刻な課題であり、いかに早く潜在患者を特定して適切な治療を届けられるかに医療関係者は向き合っていかなくてはなりません。
JMDCでは、実際の希少疾患の確定診断やその診断状況を把握するため、医師や製薬企業へのヒアリングを実施。医師へのヒアリングの結果から、特に希少疾患の専門医以外の医師は、発生確率の少ない疾患の鑑別診断には難しさを感じていることが分かりました。具体的には、医師から以下のような回答が得られました。
- 可能性の高い疾患から疑うため、発生確率の少ない希少疾患は鑑別診断の中に上がりづらい
- 患者の費用負担や身体的負担を考慮すると、希少疾患の確定診断のための検査実施を躊躇してしまう
また、製薬企業のマーケティング部門・市場調査部門へのヒアリングからは、希少疾患の顕在的な市場はある程度把握できているものの、確定診断前の治療実態が掴めていないという状況が見えてきました。症状がかなり進行した患者については特徴を押さえられているものの、潜在患者の初期症状やリスクは解明途上であるといいます。
希少疾患ならではのデータ利活用の3つのポイント
現場のヒアリングから、希少疾患の確定診断やそれに伴う検査実施の難しさもあり、潜在患者の初期症状やリスクといった確定診断前の治療実態の把握には、まだまだデータが不十分であることが分かります。
希少疾患は患者数が少ないためデータ数も少なく、データを活用した分析や検証が難しいと認識されていますが、「希少疾患ならではのデータ利活用方法がある」と北川氏は言います。北川氏は講演で、以下3つのデータ利活用のポイントを解説しました。
① 複数のデータベースを活用する
複数のデータベース(DB)を活用することで、分析対象となるデータの数を増やすことができます。また、特性が異なる複数DBで類似した分析を行い、その結果を比較することで、分析の蓋然性(確からしさ)を検証することも可能です。
② N1のジャーニーをボトムアップに見る
データが20~30名分しか取れないような超希少疾患では、個別の一例をボトムアップに細かく見ていくことで、集計以外のデータ分析ができます
③ 類縁疾患まで広げて見る
希少疾患と誤診されがちな類縁疾患まで分析の範囲を広げ、類縁疾患群と希少疾患患者群の比較からインサイトを抽出できます。
データを用いて希少疾患の潜在患者を発掘する
希少疾患の診断もれを防ぐためには、希少疾患の潜在患者を把握することが大切です。北川氏は、「リアルワールドデータ(RWD)を活用することで、潜在患者の可能性が高い患者の特徴量を定義するだけでなく、その患者が受診する対象施設セグメントを見つけることができる」と話します。RWDから洗い出した対象施設セグメントに製薬企業がアプローチをかけることで、受診患者の症状が希少疾患のものかどうか、検査が必要かどうかなどの臨床現場での的確な判断につながり、希少疾患の診断もれをカバーできるのです。
希少疾患の潜在患者を発掘するためのRWDの活用は、以下の4ステップで行います。
ステップ1:【Who】希少疾患の可能性の高い患者の特徴量候補を洗い出す
ステップ2:【What】候補の中から、診断促進のため発信すべき特徴量を定義
ステップ3:【Where】特徴量を有する潜在患者が受診している施設を特定
ステップ4:【Do】対象施設セグメントにアプローチ
このアプローチの中で重要なのは、「特徴量の定義」です。特徴量とは、対象データの特徴を定量的な数値として表したものであり、希少疾患の場合は、症状、診断のついている病名、処方薬剤などが特徴量に該当します。対象となる希少疾患の特徴量を整理することで、誤診されがちな類縁疾患軍の中から、希少疾患の特徴量を持つ潜在患者を特定します。
トップダウンの定量分析とRWDを用いたジャーニー分析から特徴量を定義し潜在患者を把握する
では、具体的にどのようにして特徴量を定義し、潜在患者の可能性が高い患者が受診する施設を把握するのでしょうか。このアプローチのためには、まず、以下の2つのデータを用いて分析を行います。
①トップダウンの定量分析
②ボトムアップのジャーニー分析
①トップダウンの定量分析
定量分析により、希少疾患を疑うべき症状を特定していきます。
まずは希少疾患の患者が診断されている標準病名を洗い出します。そのうえで、希少疾患の患者と類縁疾患の患者で、各症状がどのくらいの割合で出現するかを比較分析します。この分析により、希少疾患の患者群のみが罹患しがちな特有の症状を、トップダウンで洗い出します。
② ボトムアップのジャーニー分析
①で洗い出された特徴量候補の症状が「本当に特徴量として確からしいか」を、RWDを用いて検証します。希少疾患の確定診断をされた患者が、症状を自覚してから確定診断に至るまでの受診歴をさかのぼり、どのような診察・検査がなされたか、どのような処方がされたかなどを追っていきます。
n数が限定的な希少疾患では定量分析の結果がミスリードになるケースもあるため、個別症例のジャーニーをボトムアップでひとつひとつ確認していかなくてはいけません。
例えば希少疾患の診断を受けてHPで治療を進めていくなかで、別の症状で一度だけGPを受診し「疾患C」などの診断を受けた場合は、「疾患C」は希少疾患の診断のヒントにはなり得る症状とはいい難いのではと推察できます。
一方、希少疾患を治療している施設で、確定診断前に「疾患A」「疾患B」の2つの症状を有していた患者のケースでは、これらの症状が希少疾患に関連する症状だと判断できます。
このようにして少ない患者データをひとつひとつ積み上げていくことで、希少疾患と関連の深い疾患や症状が見えてきます。
今回のケースでは、希少疾患患者のうち40%以上の方が「疾患A」「疾患B」のいずれもの診断がついているのに対して、類縁疾患群で2つの症状を併発している患者割合はわずか0.4%でした。そのようなデータから類縁疾患群の患者の中でも「疾患A」「疾患B」を併発している患者は、希少疾患の潜在患者である可能性が高いという仮説が立てられます。
特徴量候補から発信すべき特徴量を見極める
次に、前段で洗い出した特徴量候補のうち、「市場性」「医学的な妥当性」「患者の見つけやすさ」「現場の実効性」などの観点から、潜在患者の特徴として活用すべき因子を特定します。
特徴量により納得感を持たせるためには、症状だけでなく、受けた検査や処方薬剤、診断回数など、さまざまな因子のかけ合わせにより、潜在患者を特定するための特徴量を見極めていく必要があります。
RWDを駆使することで潜在患者を見つけ出せる
希少疾患では、見落とされがちな潜在患者を発掘し、希少疾患の早期診断と適切な治療提供をすることが重要な課題です。
潜在患者の像を定義する際、一部のKOLやMR情報に依存し、データの利活用を諦めてしまってはいないでしょうか。誤診などで確定診断が遅れている潜在患者を見極めるためには、RWDを活用したアプローチも欠かせません。
「診断もれ」の状態にある潜在患者の方々が、少しでも早く適切な治療を受けられるようになるために、データのさらなる利活用と適切な分析が求められています。