DM開封率7割。オフライン施策を可視化し、デジタルとの相乗効果を実現する新戦略|MDMD2025 Autumnレポート

DM開封率7割。オフライン施策を可視化し、デジタルとの相乗効果を実現する新戦略|MDMD2025 Autumnレポート

MR数の減少やデジタル施策の費用対効果の鈍化により、製薬マーケティングの現場では新たな打ち手が求められています。そうした中、「効果が見えない」とされていたオフライン施策をデータドリブンに進化させることで、新たな可能性が開けています。

2025年10月開催のMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2025 Autumnでは、ラクスル株式会社の太田氏が登壇し、ダイレクトメール(DM)に個別化と効果測定の仕組みを組み込み、デジタル施策との相乗効果を実現する手法が紹介されました。

製薬業界を取り巻く環境の変化とデジタルアプローチでの限界

MR数は減少を続け、一人当たりの担当医師数・施設数が増加傾向にある一方、提供すべき情報は複雑化しており、効率的な情報提供が求められています。こうした状況下で、製薬各社はデジタルマーケティングに注力してきました。しかし、デジタルでのアプローチも競争激化により費用対効果が課題となっています。太田氏が紹介したマーケティング担当者100名への調査では、約6割が「Web広告の費用対効果が悪化している」と回答しています1)

さらに、「複数の医療関係者向け3rd Partyメディアで情報を発信しても同じ医師しか反応してくれない」「ターゲット外の医師にも広く情報提供したいが、コストが高すぎる」といった課題も聞かれます。

医師の情報収集行動を見ると、情報収集フェーズではWebが主流である一方、処方決定段階ではMRが最も影響力の高い情報源であることが明らかになっています。太田氏は「Webで認知を広げ、MRで背中を押すといった、チャネルの役割を明確にしたプロモーション設計が必要」と指摘します。

DM開封率は約7割。再評価されるオフライン施策の効果

デジタル施策の課題が聞かれる中、オフライン施策が再評価されています。太田氏が紹介した、同社実施の医師向け調査によると、紙のDMの開封率は約7割に達しています。多くの医師が、少なくとも内容には目を通していることが分かります。

また、DMに掲載されたQRコードへのアクセス状況について、特に新薬承認直後のタイミングではMRが訪問していなくてもDM経由で5%程度の医師のアクセスを得られたケースもありました。

オフライン施策としての「郵送DM」の効果
2025.10.30 ラクスル(株)『データで進化するDM活用術:オフラインとオンラインの融合をパーソナライズDMで実現』講演より抜粋



そして、DMには「情報を保存できる」という特徴があります。メールとは異なり実物として手元に残るため、受け取ってから2〜3週間後にもコンテンツが閲覧されるケースが確認されています。MRが訪問した際に「送ってくれたハガキのやつですね」などと医師から声をかけられることも多く、他業界では事前にDMを送付することで電話の通電率が2〜3倍上がるというデータもあります。

紙・郵送DMの特長
2025.10.30 ラクスル(株)『データで進化するDM活用術:オフラインとオンラインの融合をパーソナライズDMで実現』講演より抜粋

医師ごとに異なるQRコードで、「誰が何に興味を持ったか」を可視化

オフライン施策の最大の課題は「効果が見えない」ことです。従来は、DMを送付しても誰がどう反応したのかを把握することが困難でした。

ラクスルが提供する仕組みの核となるのが、「医師ごとに異なるQRコードの生成」です。一見すると同じように見えるDMでも、実は各医師に送付されるQRコードは個別のURLに紐づいており、誰がどのコンテンツを閲覧したかを詳細に追跡できます。

効果可視化・パーソナライズ化したオフライン施策の実現
2025.10.30 ラクスル(株)『データで進化するDM活用術:オフラインとオンラインの融合をパーソナライズDMで実現』講演より抜粋



例えば、A医師は講演会案内のQRコードだけを読み取り、B医師は製品情報ページと症例集の両方を閲覧した、といった行動の違いまで把握できます。これにより、医師の関心領域や情報ニーズを定量的に理解しコンテンツの出し分けをすることが可能になります。

この情報はCRMシステムと自動連携されるため、行動データがリアルタイムでCRMに蓄積されすぐに次の施策に活用できます。

太田氏は「オフライン施策も、マーケティングチャネルの一つとして、効果検証の設計を行った上で実施すべき。小さく始めて、素早く改善するサイクルを回すことが重要」と強調します。

医師の関心に合わせてコンテンツを出し分け、MRへの即時通知も

効果測定だけでなく、コンテンツのパーソナライズ化も可能になります。従来は医師に同じ内容を送付していましたが、医師の専門性や関心領域、これまでの行動履歴に応じて、送付するコンテンツを個別に最適化できます。

QRコードを読み取った瞬間にメールで通知する機能も実装されており、興味を示した医師に対して迅速にフォローアップすることも可能です。これにより、限られたリソースの中で優先度の高い医師に効率的にアプローチできます。

QR読み取り状況の可視化
2025.10.30 ラクスル(株)『データで進化するDM活用術:オフラインとオンラインの融合をパーソナライズDMで実現』講演より抜粋



また、「どのコンテンツが最も反応を引き出せたか」を振り返ることで、次回の施策改善にもつなげられます。医師一人ひとりの反応だけでなく、コンテンツ全体の効果測定も可能になります。

QRコードを用いた効果分析
2025.10.30 ラクスル(株)『データで進化するDM活用術:オフラインとオンラインの融合をパーソナライズDMで実現』講演より抜粋

新薬承認直後から長期販売品まで。多様な活用シーン

太田氏は具体的な活用事例として、3つのケースを紹介しました。

新薬承認直後:MRが回りきれない医師へ一斉情報提供

一つ目は、新薬承認直後に大量の情報提供が必要なケースです。MR数に対してターゲット医師が多く、さらに薬剤部や検査部門など医師以外のセグメントにも情報を届けなければならない状況では、人手だけでは対応しきれません。

ある企業では、承認後数日で5,000件のDMを郵送し、5%以上のQRコード読み取り率を記録。その後、講演会への参加申し込みや製品説明会のリクエストにつながったといいます。

さらに、QRコード読み取りの通知を受けたインサイドセールス担当のMRが、反応のあった医師を優先的にフォローアップすることで、効率的な関係構築が実現しています。

長期販売品:MR不在ブランドでも情報提供を継続し、関係性を維持

二つ目は、販売から50年以上経過した製品への活用です。ジェネリック医薬品や長期販売品では、MRが配置されていないケースも多く、どのように情報提供を続けるかが課題となります。

ある企業が薬剤部や薬局向けに約10,000通の製品情報DMを送付したところ、販売開始から長い年月が経過していても、0.5%の読み取り率(約50件の反応)がありました。

さらに、手技に関するコンテンツや資材取り寄せページなど、継続的に参照される情報を掲載することで、細く長く医療現場とのつながりを維持することができています。

デジタル未接触層:自社サイト登録を促し、将来的なターゲット化へ

三つ目はデジタル未接触層へのアプローチです。ある企業では、まず自社の医療従事者向けサイトへの登録数を増やすことをKGIに設定し、DM施策を展開しました。

複数のコンテンツ(疾患情報、講演会案内など)をテストした結果、特定のジャンルの講演会案内が最も高い反応を得ることが分かりました。さらに、DM送付後に複数回反応があった医師については、全社共通のターゲットからMRの個別担当ターゲットへと優先度を引き上げる判断材料として活用されています。

このように、DMは「情報を届ける」だけでなく、「誰が興味を持っているか」を発見し、次のアクションにつなげるツールとしても機能します。

デジタルとオフラインの融合で、リーチできる医師の幅を広げる

太田氏は最後に「オフライン施策であっても、情報の可視化とパーソナライズ化が可能になっている。従来の『効果が見えない』という限界は、もう超えられる」と述べました。

デジタル施策が高度化しても、すべての医師にリーチできるわけではありません。DMという従来の手法に、QRコードとCRM連携というテクノロジーを組み合わせることで、新たな可能性が生まれます。

重要なのは、オフラインとデジタルそれぞれの強みを活かした統合的なアプローチです。まずは小規模なテストから始め、効果を測定しながら改善を重ねていく。そのサイクルが、これからの戦略の鍵となるでしょう。

<出典>
1) 株式会社IDEATECH、株式会社キーワードマーケティング, BtoB、BtoBtoCマーケティングのWeb広告に関する実態調査, 2024,
 (https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000054.000070822.html