医師の自然行動から読み解く臨床ニーズ起点の情報提供設計|MDMD2025Autumnレポート

医師の自然行動から読み解く臨床ニーズ起点の情報提供設計|MDMD2025Autumnレポート

情報提供活動のデジタル化が進む一方、真のニーズや医師のリアルを捉えることは難しく、製薬企業は情報の拡充や改善の方向性が掴みにくいのが現状です。
 
2025年10月30日に開催された「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2025 Autumn」では、このような現状を踏まえ、医師同士が臨床に役立つスライドを共有するプラットフォームサービス「Antaa Slide」が紹介されました。アンター株式会社 取締役COO 三輪信生氏の講演内容から、医師のスライドによる情報収集の現状と製薬企業が行うWebマーケティングへの活用価値についてまとめます。

若手医師の情報収集は「動画」から「スライド」へ。「効率」がポイント

コロナ禍以降、製薬企業が開催するセミナーはWeb形式が増加し、現在では一般的になりました。Webセミナーであれば、オフラインに比べて移動時間や費用などのコストが抑えられるため、医師は自身の都合に合わせて視聴することが可能です。
 
しかし、医師の情報収集手段には、さらなる変化が既に起きています。三輪氏は、Antaa使用医師の行動データから得られた最新のインサイトを紹介しました。
 
Antaa上で、同一演者の同一講演をWebセミナーで提供した場合とスライドとして提供した場合を比較した分析では、20代~30代の若い医師はWebセミナーよりもスライドを好んで閲覧していることが分かりました。実際、20代・30代の閲覧割合はWebセミナーでは22.7%に留まる一方、スライド閲覧では83.3%を占めています 。

医師の情報収集手段は変化しています
2025.10.30 アンター(株)『医師のリアルを可視化する Antaaプラットフォームで実現する臨床ニーズ起点の情報設計』資料より抜粋

スライドを閲覧する理由を調査すると、「スライド形式で効率よく情報収集したい」という回答が最も多くなっています。他にも「専門外の知見にも触れたい」「最新の医療情報を学びたい」など、自己研鑽につながる内発的な動機も多く回答されています。

効率よく、最新の医療情報や専門外の知見を学びたい
2025.10.30 アンター(株)『医師のリアルを可視化する Antaaプラットフォームで実現する臨床ニーズ起点の情報設計』資料より抜粋

このように、スライドによる情報収集は、日時や場所の制限を受けることなく、興味関心のある情報をスピーディーに取捨選択することができるため、「タイムパフォーマンス」を重視する若い医師の間で好まれるようになってきています。

医師間で自発的なスライドシェアが行われる場。「信頼性」と「検索」の強み

このような医師の情報収集ニーズを満たすサービスが、同社の提供する「Antaa Slide」です。臨床に役立つ情報が整理されたスライドを、医師同士がシェアするプラットフォームであり、会員となった医師はスライドを投稿したり、検索・閲覧したりすることができます。
 
「スライドの投稿や閲覧にポイントなどのインセンティブがなく、学習を目的として、医師が自発的に自然行動で使用していることが特徴」と、三輪氏は紹介しました。

アンター株式会社とAntaa Slideの4つの特長
2025.10.30 アンター(株)『医師のリアルを可視化する Antaaプラットフォームで実現する臨床ニーズ起点の情報設計』資料より抜粋

同サービスに登録している医師の約9割は1年目~20年目であり、20代~30代を含む若手医師が中心です。また、9~18時の外来時間帯、21~24時の当直時間帯での利用率が高い傾向があることから、臨床現場で診療の合間のわずかな時間に使われていることが分かります。
 
若い医師は診療時間が長く、患者と多く接しているため、臨床課題に直面する可能性が高い世代です。こうした世代が、臨床疑問の解決のために、スライドによる効率的な情報収集を好んでいると考えられます。
 
一方、スライドを投稿する医師の約6割は11~20年目、次世代のリーダー層であり、少し世代が異なります。「医師の世界では元来、上の世代から下の世代へと経験則や知識を伝達していく仕組みがある。Antaa Slideはそれをデジタル上で実現している」と三輪氏は説明し、その背景がポイントインセンティブに寄らない自主的なスライド投稿につながっていると考察しました。
 
さらにAntaa Slideに投稿されたスライドはGoogle検索などの検索エンジンからも評価が高く、「E-E-A-T(経験、専門性、権威性、信頼性)」の観点で信頼度が高い情報源として上位表示される傾向にあります。最近では、日本臨床腫瘍学会(JSMO)と業務提携を行い、若手医師向けにがん薬物治療や腫瘍内科のキャリアを学べる特集ページもAntaa Slide内に開設しています1)。今後も、さまざまな学会や自治体との連携が強化される予定です。

医師の自然行動に基づくマーケティングの実践例

こうして構築された信頼性の高いプラットフォームであるAntaa Slideは、製薬企業にとってもマーケティング基盤として使うことができ、「医師の自然行動を測る実験場」にもできる、と三輪氏は説明しました。
 
その一例が、Antaa Slideのトップページや検索結果画面などに、製薬企業が作成したスライドや、オウンドサイトのバナーを掲載するサービスです。例えば、同サービス上で疾患啓発や薬物治療の機序などのスライドを閲覧した後、オウンドサイトを訪問してより詳しく学んでもらうといった動線を構築できます。

【基本サービス】貴社アカウントでスライドやバナーを掲載
2025.10.30 アンター(株)『医師のリアルを可視化する Antaaプラットフォームで実現する臨床ニーズ起点の情報設計』資料より抜粋

スライドの閲覧数や保存数などのデータは、医師の診療科別、ページ別などに取得して分析することが可能です。これにより関心の高い医師セグメントの把握やメッセージの検証に活用できます。さらに、スライドを閲覧した医師に追加アンケートを実施し、薬剤の処方意向や学習コンテンツのニーズなどの具体的なインサイトを把握することもできます。
 
また、同サービスはGoogle検索やSNS(X)からの流入が多く、月間10万件のスライド検索が行われているという特性があります。そのため、「臨床疑問が生じたその瞬間(マイクロモーメント)」を捉える施策が可能です。検索キーワードに連動し、臨床医の臨床疑問が生じたその瞬間に製薬企業コンテンツに誘導するというプロジェクトも行っています。
 
さらに、そういった製薬企業コンテンツに対する医師の反応は、ABテストに利用すること可能です。「この領域では今後どのようなメッセージが刺さりそうか」といった分析も同社では提供しています。

【プロジェクト例】貴社コンテンツを医師の自然行動で評価
2025.10.30 アンター(株)『医師のリアルを可視化する Antaaプラットフォームで実現する臨床ニーズ起点の情報設計』資料より抜粋

三輪氏は「スライドの投稿・閲覧・検索は医師が自発的に行っている自然行動であり、医師のリアルな評価を得ることができる点が強み」と強調しました。

医師のリアルなインサイトを情報提供設計に活用

マーケティング戦略策定やプロモーション施策の検討において、医師の情報ニーズやインサイトの把握は欠かせません。単なる把握ではなくその質が重要であり、医師の純粋な動機や自然でリアルな行動に基づくものであるかが観点の一つです。
 
医師間での情報シェアをデジタル化し、医師による自発的なスライドの投稿・検索ができるAntaa Slideは、リアルなニーズやインサイトの把握に役立ちます。多忙な臨床医が情報収集に効率の良さを求めている今、医師のリアルを知ることの価値や効果的なマーケティングへの活用に期待が高まります。
 
<出典>
1)日本臨床腫瘍学会(JSMO)とアンター株式会社、業務提携契約を締結
https://corp.antaa.jp/news/rPozHlxH