トラフィックデータが示す顧客体験向上のヒント-異業種の競合分析から成功要因を学ぶ|MDMD2025 Autumnレポート

トラフィックデータが示す顧客体験向上のヒント-異業種の競合分析から成功要因を学ぶ|MDMD2025 Autumnレポート

デジタルチャネルを通じた顧客エンゲージメントが不可欠となる中、最適なデジタル戦略の構築に多くの企業が課題を抱えています。2025年10月に開催された「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2025 Autumn」では、SimilarWeb Japan株式会社 シニアセールスマネージャーの及川 裕貴氏が登壇し、「異業種に学ぶデジタルマーケティング」をテーマに講演を行いました。Similarwebを用いた健康食品業界の競合分析を手がかりに、製薬マーケティングにも応用できる顧客体験向上のヒントが語られた講演内容をレポートします。

「未知のトラフィック」を可視化する。データドリブンな市場把握の重要性

従来のマーケティング活動では、自社サイトのアクセスデータは詳細に分析できるものの、競合他社や市場全体の動向といったGoogle Analyticsではカバーできない範囲のトラフィックを捉えることは困難でした。及川氏は、Similarwebがこの課題を解決するツールであると説明します。

Similarwebは、1億以上のWebサイト、800万以上のアプリ、60億以上のキーワードといった膨大なデータを保有し、世界190カ国以上の情報をカバーしています。これにより、企業は自社だけでなく、競合他社がどこから、どのようなキーワードで、どれくらいのトラフィックを集めているのかを客観的に把握可能となります。

全世界のウェブサイトのトラフィックデータを保有
2025.10.30 SimilarWeb Japan(株)『異業種に学ぶデジタルマーケティング〜競合分析で読み解く顧客体験向上の成功要因〜』資料より抜粋



自社サイトの成長が順調に見えても、他社がそれを上回る速度でシェアを拡大しているケースは少なくありません。そのため、市場全体における自社サイトの相対的な立ち位置を定期的に観測・比較分析し、自社サイトに足りない要素を足していく施策が重要になります。Similarwebは、この「他社の観測と相対比較」を、サイトトラフィック、オーガニック検索、有料検索(リスティング)、リファラル、ソーシャルメディアなどの観点から可能にします。

SimilarWebが貢献できること
2025.10.30 SimilarWeb Japan(株)『異業種に学ぶデジタルマーケティング〜競合分析で読み解く顧客体験向上の成功要因〜』資料より抜粋

健康食品業界の変化から見るユーザー行動のシフト

講演で及川氏は、製薬業界と同様に規制が厳しく、人々の健康というテーマを扱う「健康食品業界」を取り上げ、トラフィックが減少・増加しているサイトを分析し、その要因を考察しました。

2023年度と2024年度の健康食品関連の主要企業10社のパフォーマンスを比較したデータでは、サプリメントを提供する企業のアクセス数が減少傾向になり、なかには40%近く減少した企業も見られました。一方、特定保健用食品や特化型商材を扱う企業がアクセス数を増加させていることが明らかになりました。

アクセス減少に陥った企業に見られた傾向

分析対象10社のうち、最もWebサイトへのアクセス数が減少した企業では、2024年の10月〜2025年9月の1年でオーガニック検索からの流入が約4分の1に減少していました。

検索が減少したキーワードを探ってみると、ブランド名で検索するユーザーは大きく減っていないことから、ユーザーのブランド認知そのものは維持されていると考えられます。

一方で、一般キーワードでの流入が急激に減少しており、コンテンツSEO対策周りに原因がある可能性が見受けられます。

ブランドキーワードと一般キーワードの減少数
2025.10.30 SimilarWeb Japan(株)『異業種に学ぶデジタルマーケティング〜競合分析で読み解く顧客体験向上の成功要因〜』資料より抜粋

そこで、アクセスが減少したキーワードを分析してみると、体調に関する情報や栄養にまつわる一般的な悩み、食品の健康影響を調べるワードなど、幅広いテーマでの読み物型のコンテンツが多く含まれていました。これらは広く潜在層に届いていたキーワードであり、検索流入の大きな土台を支えていた部分です。この領域がまとめて減少していることから、Googleのコアアップデートの影響により記事の評価が下がった可能性、またはサプリメント関連の規制強化を受けてコンテンツSEOの記事自体を削除した可能性が考えられると及川氏は分析しました。

この結果、ブランド以外の接点でユーザーがサイトに触れる機会が失われ、従来獲得できていた潜在層へのアプローチが大幅に減少しています。及川氏は、どのブランドにしようかと決めかねているユーザー層に対して適切に価値を訴求し、顧客体験を構築しなければ、新規ユーザーの獲得は難しいと指摘します。その上で、コンテンツSEOの改善施策を通じてユーザーとのタッチポイントを増やし、アクセスを回復させることで、顧客体験が改善されるのではないかとの見解を示しました。

サイトが成長した企業に見られた「自社の強み×ユーザー関心」のコンテンツ戦略

対照的に、アクセス数が増加した企業の通販サイトでは、オーガニック検索流入が2024年10月〜2025年9月の1年間で約6倍に増加していました。流入キーワードの内訳を確認すると、ブランドキーワードのシェア率23.3%に比べて一般キーワードが76.7%と高く、コンテンツSEOから多くユーザーが流入していることが分かります。

増えていたキーワードの多くは、腸・便秘・菌といった、同社の特化型の商材や機能性食品と強く関連するものでした。この企業では自社製品の強みとユーザーの悩みなど関心の高いテーマを丁寧に紐づけながらコンテンツ強化を続けていた結果、「腸内環境の専門サイト」としてGoogleに評価された可能性が考えられます。

健康食品や医療に関する情報は、Googleの評価軸である信頼性や専門性が求められる領域です。そのため、特化領域で高い専門性を示すサイトは、検索エンジンからの評価を受けやすくなります。こちらの企業のケースは、この特性をうまく捉えた戦略であり、結果として自社製品に関心を持つユーザーの流入が増加し、サイト訪問後のエンゲージメント(滞在・閲覧・購買意欲など)も向上している可能性が高いと及川氏は分析しました。

異業種の成功例に学ぶ、製薬マーケティングが押さえるべきポイント

及川氏は、これらの健康食品業界の分析結果を踏まえ、製薬企業が一般向けコンテンツを展開する際にも重要だと考えられるポイントを示しました。それは、「自社の強みと顧客ニーズを紐付け」「特定のテーマ領域で専門性の高いコンテンツを積み上げる」ことです。

及川氏は、幅広い健康情報を網羅的に扱うポータル型のメディアは、検索エンジンでは「専門性が浅い健康系まとめサイト」と判断されている可能性があると指摘します。一方で、自社製品や疾患領域に関する専門性に基づき、ユーザーが求める情報と強みを結びつけたテーマで構成するメディアは、検索エンジンから評価を得られやすく、結果として顧客体験の向上につながる可能性があります。

製薬企業でも今後取り組むべき方向性として、自社製品の領域に関心を持つユーザーの解像度を高めながら、製品領域とユーザーの関心をつなぐコンテンツを整えていくことの重要性が示唆されました。

競合分析で顧客体験の向上を

今回の及川氏の講演では、自社の強みを起点とした特化型コンテンツの戦略設計が、これからの顧客体験づくりの鍵になることが示されたといえます。そして、この戦略を支えるのがデータに基づく競合分析です。Similarwebのような分析ツールを活用し、競合他社がどのようなコンテンツで成功し、あるいはトラフィックを失っているかを定量的に把握することで、自社の戦略を常に修正・最適化していくデータドリブンな意思決定が求められています。