【プロマネTips.10】今後医師が必要とする情報と次世代医療基盤法

【プロマネTips.10】今後医師が必要とする情報と次世代医療基盤法

プロマネからMRへの新しい情報の提供は、MRによる医師へのディテーリングに有効です。新しい情報があることで、MRは医師との面会の口実を作りやすくなります。しかし、製薬企業が届ける情報が、医師にとって必要だとは限りません。医師は、臨床の実態(リアルワールドデータなどの医療ビッグデータ)に興味を持っていると考えられます。医師は医療ビッグデータの、どのような情報を知りたいと思っているのでしょうか。

いつも新しい情報を欲しているMR

MRは日々、医師との面談やWEBディテーリングのアポイントを取得すべく、医師にコンタクトしています。現在、訪問規制を敷く医療機関が非常に多い中でMRがアポイント取得のために重要となるのは、医師の興味を引く情報提供ができるかどうかです。

MRがアポイントを取得しやすい話題には、「最新の大規模臨床試験の結果」や「学会トピックス」などといった、新鮮な話題や臨床上重要なデータなどが多いようです。そのため、MRはいつでも自社医薬品の最新情報や、医師のニーズが高そうな情報を欲しています。

MR向けに毎月最新情報を提供することがプロマネの負担に

そもそも、自社医薬品の最新情報はコンスタントに出せるものではありません。新薬の上市時は、医師は新薬についての情報を持っていないため、MRからあらゆる情報を伝える必要があります。MRにとって、医師と話しやすい時期です。そのほか、一部の新しいデータが継続して登場する抗がん剤に関する情報も、医師との面会の機会を途切れさせないニーズの高い情報です。

しかし、売上が頭打ちになってきた、プロダクトライフサイクル上の成熟期に差し掛かってきた医薬品では、新たなデータはほとんど出てこなくなります。医師に提供できる新しい情報がなくなることは、医師とのアポイント取得が難しくなることでもあります。こういった理由もあり、 MRはプロマネに対して何か本社から新しい情報を出してくれないか と期待しています。

では、MR・医師が求める「新しい情報」とはなんなのか。情報を検討する際のポイントを考えてみます。

1. 新しい情報は、医師に喜ばれているか

医師にとって、製薬企業が提供する情報が喜ばれているかどうかも見直す必要があるかもしれません。MRやプロマネは医師が新しい情報を必要としていると思いがちですが、その情報が必要かどうかを判断するのは医師です。

最新情報であっても、医師のニーズを満足させる情報かどうかは別問題です。プロマネやMRが医師に提供する情報について着目すべきは、「医師が聞きたいと思う情報かどうか」ということです。その判断は、 日ごろ医師とやり取りしているMRが、医師のニーズをどれくらい把握できているか によります。 これからのプロマネは、最新の論文を探索するだけでなく、現状で医師が何に困っているかにも注意を払う必要があります。

2. 情報は、新しければ良いのか

学会ブースやディテーリングで、アンケートが実施されることがあります。

アンケートでは例えば、上市後1年程度経過した新薬の奏効率、奏効期間などの添付文書や、製品情報概要に記載してある基本的な情報を医師がどれくらい正しく覚えているかや、製品のポジショニングを確認します。

新薬のさまざまな数値を正確に覚えている医師は多くはいません。医師が奏効率と生存率、奏効期間と生存期間などで数字を取り違えている場合も多くあります。

MRが医師にきちんと情報提供できていなかった可能性もあります。しかし、そもそも医師はたくさんの医薬品について覚えなければならないほか、診療の知識のアップデートが求められたり、大量の日常業務に忙殺されたりと、個々の医薬品の詳細なデータを覚える暇がありません。

このようなことを鑑みれば、医師への提供情報を最新情報に限る必要はありません。 定期的に医薬品の基本情報を再確認いただくようにディテーリングする ことも、医薬品への理解を正したり、記憶に定着させるために効果があるかもしれません。

3. 医師はどのように情報を覚えているのか

多くの医師に尋ねると、医師の医薬品情報の覚え方には傾向があるように見受けられます。

医師の専門に関わる医薬品であれば、同種同効品全体の医薬品はそれぞれの違いを把握できるよう、覚えているようです。例えば、それぞれの医薬品の代謝経路の違いや特筆すべき有害事象や副作用とその発現率およびその対処法、薬価などをできる限り正確に覚えるように、一覧表を独自に作成している医師もいます。

一方、専門外の医薬品に対しては、効果や副作用の発現率は大まかに把握している程度、という医師が多いです。

医薬品に対して、効果が期待できるから使える、薬なら副作用が出るのは当たり前、と考える医師や、同種同効品の効果や安全性の数値は大まかに覚えていれば十分と考える医師も多いかもしれません。

プロマネやMRが医師に医薬品情報を提供する際、このような医師の認識や情報の覚え方も想定しておく必要があります。

これからの製薬企業は医師に届けるべき情報をデータから導く

では、医師のニーズを満たす情報とは何でしょうか?この点を考えるためには、医師がどのように日常診療をしているかについて、今一度理解する必要があります。

医師が日常診療で接する患者さんの多くは、複数の疾患を併発しています。よって、さまざまな医薬品との効果の増強もしくは減弱、有害事象の発現といった相互作用が起こりえます。このような時、 医薬品の開発時のデータで不十分で、臨床上の医薬品の効果や安全性はリアルワールドデータで確認しなければ、医薬品の実評価が定まりません

そして、これこそが医師が知りたいデータだと推測できます。2018年5月に施行された「次世代医療基盤法」により、製薬企業もこういった医薬品を含む臨床でのさまざまなデータを積極的に活用できるようになっています。

次世代医療基盤法とは?プロマネが知っておくべき医療データの法律

次世代医療基盤法は、日本国民の医療情報を先進的な研究開発に利活用し、健康長寿社会を実現するための医療情報の利活用促進を目的とした法律です。 2017年5月12日に交付され、2018年5月11日に施行されました。

大量の医療情報を活用することで、たとえば以下のようなことに役立てられると考えられています。

  • AI(人工知能)を活用した診断支援ソフトの開発
  • 一人一人の患者さんに個別に最適な治療の提供
  • 異なる医療機関や領域の情報を統合した治療成績の評価
  • 新薬の研究開発
  • 医薬品等の安全対策の向上
  • 地域の医療におけるニーズ分析と提供体制の検討
  • 診療報酬や費用対効果評価の検討

これらは、情報を利用したい研究機関や企業などに認定事業者から有償で提供されます。患者さんのデータおよび医師名は匿名化処理後に利用ができます。

2021年5月26日時点では76の医療機関、合計病床数は35,569床がこの次世代医療基盤法に協力しており、政府のバックアップもあることから今後さらなる医療機関の参加も見込まれています。

データを分析することで、患者さんがどのような検査を経て診断名がつき、どのような治療を受け、その経過はどうだったかが分かります。そのほか、自社医薬品が処方されたか、処方が継続しているか、他の薬剤に切り替えられたかなども把握可能です。データから得られたさまざまな示唆は、医師が必要とする情報になり得るものもあるでしょう。

医師の疑問解決に役立つ情報提供が必要

治験のデータよりも、 医師の身近な臨床上の疑問解決に資するデータ(臨床現場での実際の治療成績や有害事象の発現状況など)が医師にとって必要で、有益で、医薬品の使いやすさを左右する情報 といえます。これらのデータを競合品よりも多く医師に提供でき、医師にとって一番使いやすいというポジショニングを獲得できた医薬品が、今後市場のシェアNo.1になるかもしれません。


<参考> (2021年8月13日最終閲覧)
・政府広報オンライン「一人ひとりの医療情報が“明日の医療”につながります。」( https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201811/1.html
・内閣府 健康・医療戦略推進事務局「次世代医療基盤法」(「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」)の施行状況等につい( https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/data_rikatsuyou/dai3/siryou2.pdf