【2024年診療報酬改定を先取り】診療報酬改定を製薬企業のマーケティングに活かす方法 「Ⅰ 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」編

【2024年診療報酬改定を先取り】診療報酬改定を製薬企業のマーケティングに活かす方法 「Ⅰ 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」編

2024年の診療報酬改定の個別改定項目は、細かな調整などを経て2月7日に個別改定項目その3として取りまとめられました。今回の診療報酬改定も、これまで同様に医療資源の配分の最適化や、医療機関の役割に応じた取り組みの徹底を促す内容です。これらの中には、製薬企業のマーケティングにも関わることが散見されます。今回は診療報酬改定の「Ⅰ 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」の内容を解説し、製薬マーケティングとの関係について考えます。

厚生労働省が医療機関に求めているものは「リソースの確保と最適配分」

厚生労働省は、これまで診療報酬改定のたびに、病院、診療所、薬局など、それぞれの医療機関に応じた役割をきちんと果たすことを求めてきました。そして、医療機関の取り組みを評価し、実績などに応じて診療報酬点数を配分しています。

これは、厚生労働省が分析し、構想を練ってきた今後の日本における望ましい医療提供体制の構築のために、医療のリソースを最適配分する必要があるためです。

人口減少時代に突入した日本では、今後人口動態が激変することが予想されています。それに伴い、医療のニーズも大きく変わると考えられています。それらを踏まえて、厚生労働省が医療リソースの確保と最適配分という非常に難しい舵取りをしていることが、2024年の診療報酬改定の個別改定項目にも表れています。

Ⅰ 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進2)

ここからは、2024年の診療報酬改定の個別改定項目を、製薬業界に関わりが深いと考えられる箇所から、今回は「Ⅰ 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」についてそれぞれの項目を解説します。

Ⅰ-1 医療従事者の人材確保や賃上げに向けた取組

日本経済の物価上昇に伴い、医療従事者の待遇も改善する必要が出てきました。民間企業が賃上げを図る中、医療従事者の待遇との間に差がつき始めたためです。
その状況を解消すべく、下記の項目が見直されます。

【具体的な改定内容】

  1. 賃上げに向けた評価の新設
  2. 入院基本料等の見直し
  3. 初再診料等の評価の見直し
  4. 歯科医療における初再診料等の評価の見直し
  5. 地域医療に貢献する薬局の体制確保に係る調剤基本料等の見直し

集患力が低く、患者さんが他の医療機関に受診してしまう医療機関では収益が見込めないため、収益を自院に勤務する医療従事者の待遇に配分することが困難になります。そうすると、医療従事者の待遇の改善は難しくなるでしょう。その結果、医療従事者がより良い待遇を求めて、他の医療機関に転職してしまう可能性が高まります。
こうなりますと、急性期病院の一般入院料1の7対1病床が減り、病院の収益が悪化するなどの負のスパイラルが起こり得ます。

このことは、長期的に見ると、製薬企業の施設のターゲティングに影響を及ぼすでしょう。
患者さんが集まらない病院をターゲットとする合理的な理由が見当たらないからです。

Ⅰ-2 各職種がそれぞれの高い専門性を十分に発揮するための勤務環境の改善、タスク・シェアリング/タスク・シフティング、チーム医療の推進

医師の働き方改革に伴い、医療従事者へのタスク・シェアリング/タスク・シフティングの実行や、チーム医療による業務の連携から、効率的で効果的な医療を提供することを一層求められます。そのため、従来の取り組みを一層推し進めるために、要件を見直します。
ターゲット先の病院にタスク・シフティング/タスク・シェアリングのニーズがあるならば、製薬企業としてサポートできることがあるかもしれません。

【具体的な改定内容】

  1. 医師事務作業補助体制加算の見直し
  2. 特定集中治療室管理料等の見直し
  3. 入院中の薬物療法の適正化に対する取組の推進
  4. 薬剤師の養成強化による病棟薬剤業務の向上
  5. 外来腫瘍化学療法診療料の見直し

「③ 入院中の薬物療法の適正化に対する取組の推進」の中で特に、【薬剤総合評価調整加算】が要注目です。
この項目では、複数の内服薬が処方されている患者であって、薬物有害事象の存在や服薬過誤、服薬アドヒアランス低下などのおそれのあるものに対して、処方の内容を総合的に評価した上で、当該処方の内容を変更し、当該患者に対して療養上必要な指導を行う取り組みを評価します。この中で、「患者の病状、副作用、療養上の問題点の有無を評価するために、医師、薬剤師及び看護師等の多職種による連携の下で、薬剤の総合的な評価を行い、適切な用量への変更、副作用の被疑薬の中止及びより有効性・安全性の高い代替薬への変更等の処方内容の変更を行う。」とあります。

したがって、これまで以上に製薬企業から薬剤師・看護師への情報提供が重要になるかもしれません。薬剤師や看護師も味方につけた製薬企業が、今後自社製品のシェアを伸ばす可能性があります。

また、個別改定項目には「ポリファーマシー対策に関する手順書を作成し、保険医療機関内に周知し活用すること。」とありますので、各医療機関が今後どのように対応していくのかも、要注意でしょう。

特に、高齢者の入院の際、持参薬の確認及び内服薬の総合的な評価及び変更に当たっては、「高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)」(厚生労働省)、「高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別))」(厚生労働省)、日本老年医学会の関連ガイドライン(高齢者の安全な薬物療法ガイドライン)、「病院における高齢者のポリファーマシー対策の始め方と進め方」(厚生労働省)、「ポリファーマシー対策の進め方」(日本病院薬剤師会)等を参考にすることとあります。すなわち、今後高齢者に対して、これらのガイドラインに準拠した薬物療法を施行することが医師や薬剤師などに求められるということです。
そのため、今後は医師の処方の判断軸が変化するかもしれません。

「④ 薬剤師の養成強化による病棟薬剤業務の向上」と「⑤ 外来腫瘍化学療法診療料の見直し」の見直しは、抗がん剤を自社製品に持つ製薬企業は、その地域での医療機関やがん患者さんの動向に注視する必要が出てくるかもしれません。
この見直しによって、抗がん剤治療を受けている患者さんが、外来化学療法を施行している病院から、その病院と連携している医療機関に移る可能性があるからです。

具体的には、「やむを得ない理由等により専任の医師、看護師又は薬剤師を院内に常時●●(実際の数値は今後公表)人以上配置することが困難であって、電話等による緊急の相談等24時間対応できる連絡体制を整備している医療機関」の評価が新たに設けられます。
そして、この医療機関と連携する外来腫瘍化学療法診療料1の届出医療機関において、副作用等による有害事象等への対応を行った場合の評価も新たに設けられます。

さらに、「抗悪性腫瘍剤の投与その他必要な治療管理を行った場合」について、「抗悪性腫瘍剤を投与した場合」と「抗悪性腫瘍剤の投与以外の必要な治療管理を行った場合」の評価に細分化されます。

このような一連の見直しから、厚生労働省が「がん患者さんが、どの医療機関でも最適ながん治療を受けられる体制を作る」「がん診療がどのように提供されているかをきめ細かく把握し、評価する」という意図が見えてきます。

Ⅰ-3 業務の効率化に資する ICT の利活用の推進、その他長時間労働などの厳しい勤務環境の改善に向けての取組の評価

この項目には病院の看護師の夜勤の負担軽減や、医療機関・薬局の事務などを簡素化する取り組みが明記されました。

【具体的な改定内容】

  1. ICT、AI、IoT 等の活用による業務負担軽減の取組の推進
  2. 医療機関・薬局における事務等の簡素化・効率化

Ⅰ-4 地域医療の確保及び機能分化を図る観点から、労働時間短縮の実効性担保に向けた見直しを含め、必要な救急医療体制等の確保

2025年に団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることを踏まえ、急性期病院の病床機能を地域全体で効率良く活用しなければなりません。そのため、従来から推し進められていた地域医療連携体制の構築は、今回も厳密に評価されます。

製薬企業の皆さんは、自社ターゲット先の病院と周辺の診療所・クリニックの連携作りや実際の運用状況は、十分把握できていますでしょうか。

【具体的な改定内容】

  1. 地域医療体制確保加算の見直し
  2. 勤務医の働き方改革の取組の推進

Ⅰ-5 多様な働き方を踏まえた評価の拡充

今回の診療報酬改定では、医療従事者の待遇改善と併せて、それぞれの専門性を評価することになりました。これらの取り組みで、医療従事者の働きがいなどを醸成することができるかもしれません。

【具体的な改定内容】

  1. 特定集中治療室管理料等の見直し
  2. 看護補助体制充実加算に係る評価の見直し
  3. 感染対策向上加算等における専従要件の明確化
  4. ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減の取組の推進
  5. 訪問看護ステーションにおける持続可能な24時間対応体制確保の推進

Ⅰ-6 医療人材及び医療資源の偏在への対応

「時間外対応」や「超急性期脳卒中」、あるいは「地方で医療資源が少ない」といった医療行為が提供された時間や場所における医療の提供体制が、評価・見直しされます。

【具体的な改定内容】

  1. 時間外対応加算の見直し
  2. 特定集中治療室管理料等の見直し
  3. 超急性期脳卒中加算の見直し
  4. 脳梗塞の患者に対する血栓回収療法における遠隔連携の評価
  5. DPC/PDPSの見直し
  6. 医療資源の少ない地域に配慮した評価の見直し
  7. 医療資源の少ない地域の対象地域の見直し

医療提供体制をどうやって持続させるかが、今回の診療報酬改定の意図の一つ

今回は、個別改定項目の「Ⅰ 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方改革等の推進」の改定内容と製薬マーケティングとの関わりを見てきました。
個別改定項目を読んでいるだけでは分かりにくいことも、医療の現場や課題、他の資料などと付き合わせて考えると、厚生労働省の意図が少しずつ見えてきます。
この後に続く「Ⅱ ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DX を含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」以降も、製薬業界のマーケティングに影響を及ぼすと考えられる箇所が多く見られます。それらについては、次回解説します。

参考資料
1) 厚生労働省資料 令和6年度診療報酬改定の基本方針の概要(https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001177119.pdf
2) 厚生労働省資料 令和6年度診療報酬改定の個別改定項目(https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001206366.pdf