実体験から語る|製薬マーケターが意識すべき、ステークホルダーマネジメントの重要性

実体験から語る|製薬マーケターが意識すべき、ステークホルダーマネジメントの重要性

「ステークホルダーマネジメント」とは、個人が仕事をする上で直接的または間接的に影響を受ける関係者との関わり合いを大切にしながら仕事を進める姿勢のことをいいます。今回は、営業(MR)からマーケティングや本社勤務に異動してきた製薬企業に勤務する若手の方は特に知っておくべき、ステークホルダーマネジメントの重要性について苦労や実体験も交えながら解説していきます。周囲との関係構築、信頼性を高める上でのヒントに、ぜひご活用ください。

(外資系製薬企業 経営企画室勤務/製薬キャリア3.0運営 こういち)

ステークホルダーとは誰のことか?

日本語では「利害関係者」と訳されることが多いステークホルダーという言葉。

「あなたにとってのステークホルダーとは誰のことですか?」

もしこの質問をされたとき、あなたは、どなたを思い浮かべるでしょうか?

若手MRの方であれば、最初に思い浮かべるのは顧客である「医師」と答える方も多いと思います。
上司や周りの同僚を頭に浮かべる方もいらっしゃるでしょう。
本記事で述べるステークホルダーとは「あなたの仕事に関わるもしくは関係するすべての人」と定義し、以降の文章をまとめていきたいと思います。

この「すべての人」には、

  • 顧客である医師や薬剤師
  • 上司や同僚
  • プロジェクトメンバー(他部署の方々など)

が含まれます。

またもっと広い概念で捉えると

  • 患者さん
  • あなたのご家族
  • あなたの友人

なども該当します。

イメージとしては以下のような図で表現されます。

ステークホルダーマップのイメージ

このイメージ図はステークホルダーマップと呼ばれるものです。

あなたを中心に据えて、あなたの仕事と直接的に関係が濃い方々を近くに配置し、仕事と関係が薄い方々を遠くに配置したイメージ図になります。

これらのステークホルダーに対して、どれだけの心配り/配慮/尊重/協力/助け合いができるかで、営業から本社に異動した後の成果や働きやすさが大きく変わってきます。以降の章では、具体例も交えて解説していきたいと思います。

ステークホルダーマネジメントが上手くいかないと、どんなマイナスなことがあるのか?

ここからは実際にあった失敗事例を3つご紹介していきます。

こういちの失敗事例

これは筆者である私自身の失敗事例です。私はMRから本社に異動した当初、ステークホルダーマネジメントの意識が弱く、当時の上司から指導をもらったことがあります。

当時、営業の勢いも残っていたこと、また若かったということもあり、「攻撃的・威圧的に見えることがある」というフィードバックを当時の上司から受けました。一緒に働く同僚から寄せられた意見のようでした。

当時の私はそもそも、「ステークホルダーマネジメント」や「ステークホルダーマップ」のような考え方自体知りませんでした。そのため、他者とのコミュニケーションにおいて、多少強引な姿勢が出てしまっていたようです。

具体的には、「外部の顧客対応のためであれば社内の人は多少無理してでも対応すべきであり、顧客を最優先にすることが何よりも大切である!」と少し偏った考え方を持って社内の人と接していました。

きっとそのことが原因で少し威圧的に振る舞う姿勢や態度が出てしまっていたのだと思います。

せっかく一生懸命仕事をしていても、これでは評価もされにくいですし、何より一緒に働く仲間が幸せではないですよね。なぜならこの姿勢でコミュニケーションを行うと、周りで働く人々に必要以上に負荷を強いることになるためです。

この指摘をきっかけに、自分のコミュニケーションのあり方を考えるようになりました。

先輩のAさんの失敗事例

マーケティング部に所属していた先輩のAさん。マーケターとしての実力があるにも関わらず、同僚や他部署とのコミュニケーションが雑なため、変な誤解や偏見を持たれてしまうことが多い人でした。

具体的には、

  • 年下だと基本敬語は使わない
  • メールは用件のみで御礼や枕詞がない
  • 他部署の批判や文句がすぐ口に出る

という方でした。

プレーヤーとしては優秀であっても、残念ながら周りからの評判はあまり良いものではありませんでした。

  • よく他部署の方とコンフリクト(衝突)を起こす
  • メンバーから不満が出てきて、プロジェクトが思うように進まない。
  • 結果がある程度出ても、評価されない。

このような状態でした。結果、最終的にはプロジェクトからは外され、降格の憂き目にあってしまいました。配慮に欠けたコミュニケーションを取ると、このような事態も招いてしまうという事例かと思います。

先輩のBさんの失敗事例

メディカルアフェアーズ部に所属していた先輩のBさん。MSLとしてものすごく学術知識に長けている方でしたが、あいさつやお礼など、人としての基本的なコミュニケーション部分をおろそかにしがちな方でした。また他人の批判が多く、会議などで同僚のミスを必要以上に強く指摘する方でした。結果、社内の人からの評判がすこぶる悪くなり、その後降格という運びになりました。「こんなモンスターみたいな社員も本社には存在するんだな。」と衝撃を受けたことを今でも覚えています。

以上3つの事例を紹介させていただきました。
これらの失敗事例からいくつか感じ取れる部分があったのではないでしょうか?次の章では、同じ撤を踏まないための心構えや心掛けることについて解説していきたいと思います。

周りとの協力関係を築く上で大切にしていること

本社に異動してきた直後、指導してくださった上司からいくつかの教えを授かりました。

約2年間指導いただいたその上司は、周りとのコミュニケーション能力が高く、部下からも、また上司や他部署からも評価の高い方でした。元々MR出身で、そこから学術、マーケティング、メディカルと長年本社経験を積んできたキャリアの大先輩でもあります。

本日はその上司からの指導で、特に印象に残っているアドバイスを3つピックアップし、以降でご紹介していきたいと思います。

『「三方よし」を意識する』

三方よしの「三方」とは、「売り手」と「買い手」、そして「世間」の3つを指す言葉です。つまり、「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」を表した、良い商売をするための考え方を指しているのが「三方よし」となります。経営の神様と呼ばれる松下幸之助さんが好んで使ったことでも有名な言葉です。

私の上司はこの考え方を、普段のコミュニケーションに応用すると良いとアドバイスくださいました。

具体的には「売り手=自分達」「買い手=他部署」「世間=顧客(医師や患者さん)」のような考えを、普段のコミュニケーションに応用させていく考え方になります。

この3つのステークホルダーにとって、ベストな選択肢や解決策を探りに行く姿勢や態度を取っていると、自然と相手への配慮や相手を慮ったコミュニケーションが生まれやすくなるとアドバイスをもらいました。
要するに、「自分の主張も大切にしつつ、他部署の主張、またその先にいる顧客にまで想いを馳せて、コミュニケーションするように心掛けなさい」というアドバイスになります。

最初は「ふーん」くらいにしか思っていなかったのですが、意外にも効果はてきめんでした。

三方よしになる結論を出すのは、簡単そうに思えても、実際は難しいものです。なぜなら我々の部署にとってのベストな選択肢と、他部署にとってのベストな選択肢、また顧客にとってのベストな選択肢はその時々で異なるためです。本社勤務になると、関わる部署が非常に多くなりますので、こういった場面に遭遇することは珍しくありません。

しかしながら、この三方よしの考え方を頭の片隅に置いた上で、他部署とのコミュニケーションを取ることによって、互いに合意形成を図りながら結論を導くことができるようになります。

この考え方は、顧客や他企業との交渉事でも効果を発揮します。ぜひ意識してみてください。

「コミュニケーションの方法にも気を遣う。メールは誤解を招きやすい』

これも指導を受けたポイントの1つです。

その上司いわく、「同僚のコミュニケーションにどれだけ気配りができるかで、仕事の進みが格段に変わってくる。コミュニケーションには、チャット、メール、電話、オンラインでの会話、直接会っての会話、などさまざまな方法がある。場面場面で効果的なコミュニケーション方法は変わってくる。お願い事はできれば対話から入ったほうが良く、短時間のOne on Oneが効果的。またメールコミュニケーションは誤解を招きやすい性質があることをよく理解しておくこと」とのアドバイスをもらいました。

できている方からすると、この当たり前のようなことも、当時の私はそこまでこのことを意識できていませんでした。「同じ内容を伝えるのであれば、メールでも口頭でも同じでしょ」といった感覚でコミュニケーションを捉えていました。
おそらく上司の目からすると、そこに改善の余地があったのだと推察します。

この指導の後、私は口頭での対話の機会が増えました。具体的には、電話をする機会、直接会って話をする時間が増えました。一見非効率のようですが、互いの認識を確認しあう時間が増えたことで無駄な確認作業や無駄な会議が減り、結果的に生産性を高めることに繋がりました。また相談をもらう機会や雑談をする時間も増え、良好なチームワークの形成にも一役買ってくれました。

メールベースのやりとりの中で、少し誤解が生じそうであれば「いま少しお話できますか?」と5〜10分の対話の機会を意図的に作ることによって、大きな揉め事や部門間の対立を未然に防ぐことができるようになりました。

効果的なコミュニケーション方法をその時々で選択しながら、周囲とのやりとりを行っていく術をこの時に身に着けたと思います。

『週に1~2回は早く帰りなさい。家族との良好な関係を維持することが仕事のパフォーマンスにも繋がるから』

この言葉は本社勤務を始めて1ヶ月ほどしたときに、当時の上司に掛けてもらった言葉です。

当時はリモートワークというシステムもなく、基本は毎日出社していました。
また時代的背景から、朝早くから夜遅くまで会社に残って仕事をするという風潮も残っていました。
元々地方MRだった私は、メディカルの仕事を早く覚えるために21時近くまで会社に残っていました。帰宅するのは、毎日22時頃でした。
そんな中で掛けてもらったのが冒頭の言葉です。

上司いわく、「同僚や上司、プロジェクトメンバーはもちろん、自分の家族や友人も広い意味ではステークホルダーに該当する。プライベートも含めた周囲との良好な関係が、仕事においての好パフォーマンスにも繋がる」とのことでした。

色々話を聞いていくと、どうやら過去の部下の中に、家族との関係悪化が原因で、仕事にまで支障をきたしてしまったケースがあったそうです。その時の経験から仕事とプライベートは密接に関係しており、家族関係や友人関係を含むプライベートの人間関係もステークホルダーマネージメントの一環として意識するようになったということを教えてもらいました。
プライベートの人間関係も含めてステークホルダーマネジメントを意識するという発想自体が当時の私にはなかったのでこの考え方は新鮮でした。

当時は、地方MRから本社への異動で引っ越しを伴っていたので、家族も環境の変化に適応をしなければいけない時期でした。言われてみれば、新しい仕事のことを優先するあまり、帰宅は毎日遅くなり、家族の新しい環境への配慮は後回しにしてしまっている部分もありました。

特に妻からリクエストされたわけでもなかったのですが、この上司のアドバイス以降、妻とも話をして、週に1〜2回は早く帰る日を設定するようにしました。それが良かったのかどうかは分かりませんが、特に家庭に不和が生じることなく、新しい仕事を徐々に覚えていくことができました。

ものすごく当たり前のことをつらつらと書きましたが、こういった部分を大切にしていくかどうかで、その後の成果も大きく変わってきます。
多くの方に共通することですが、本社に異動したての頃は、環境が変わり、ついつい頑張りすぎてしまうものです。特に20代の若い方にそういう傾向が見て取れます。そういった時こそ、周りにいる家族や友人への感謝や配慮を忘れないことが、回りまわって仕事の好パフォーマンスに繋がっていくということを覚えておいてください。

ステークホルダーマネジメントは仕事の成果に直結する

以上、印象に残っている3つのアドバイスについて、こういちの具体的な経験を交えて解説しました。この当時の上司の指導は、本社勤務を続けていく上で、いまだに核になっています。この指導の後、姿勢や接し方を変えたことで自分の仕事がうまく回ることを実感し、以降ステークホルダーの考え方を常に意識するようになりました。この意識は知っておいて損はないと思います。私自身の失敗談からの、若手のみなさんへのアドバイスになります。そのエッセンスを、特に本社に異動してきたばかりという皆さまにお届けできたら嬉しく思います。

本記事の内容が皆さまの日々の業務や生活のお役に立ったのであれば嬉しく思います。以下、運営しているブログの中では製薬企業で勤務する上で役に立つ情報やマインドセットについても発信しています。良かったらご覧ください。

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