#3 「AIのサイロ化」を防げ。一気通貫のコンテンツオペレーション再構築のステップ|AI時代のコンテンツマネジメント法

製品上市の増加と加速、コンテンツ選好の進化に伴い、MLR(メディカル、法務、薬事)の役割の変革が加速しています。前回の記事では、そうした中で、AIはMLRレビューの品質向上と負荷削減に貢献しつつあることを紹介しました。
MLRレビューの例は、今日製薬企業に求められるコンテンツ提供の速度と精度を担保するために、コンテンツオペレーション全体が進化しなければならないことを示しています。
Veevaでは、前回に続き、アステラス製薬株式会社のオムニチャネル戦略・オペレーション担当ディレクターである加藤 圭氏を招き、コンテンツオペレーションにおけるAI統合の道筋と課題について伺いました。日本の製薬企業がAIを用いてコンテンツライフサイクル全体を再構築する方法について整理します。
(Veeva Japan株式会社 プリンシパルビジネスコンサルタント クリス・ティリー × アステラス製薬株式会社 オムニチャネル戦略・オペレーション担当ディレクター 加藤 圭 氏)
AIはコンテンツオペレーション全体に影響
AI技術は、コンテンツの戦略立案からレビュー効率化、そして展開後のフィールドでの使用に関するインサイト活用に至るまで、製薬企業のコンテンツオペレーションを全面的にサポートできます。

増大するコンテンツ量に対応するためには、レビュー担当者、マーケティング担当者、ブランドチームとマーケティングオペレーションチーム、外部協力会社が協業することが重要です。協業によって、より速く、よりコンプライアンスを順守した、パーソナライズされた医療関係者向けコンテンツが制作できるでしょう。
コンテンツサイクルの各領域でのAI活用
加藤氏:AI活用により、コンテンツオペレーションはバックオフィス機能から、競争優位性の戦略上のイネーブラー(支援者)へと変わる可能性があります。
さらに、AI活用によってモジュール(部品)化され、パーソナライズされたコンテンツの迅速な制作と承認が可能になり、同時にパフォーマンスフィードバックも統合できれば、コンテンツライフサイクル全体が加速します。これは、配信が加速されるだけでなく、よりスマートで、より適切で、よりインパクトのあるコンテンツを制作できるようになるという意味でもあります。すると、コンテンツオペレーションをCXとビジネス戦略の推進力の中核として位置づけられるようになります。
具体的には、コンテンツオペレーションの各段階で、以下のようなAI活用が考えられるでしょう。
- コンテンツの分解と再利用:既存の承認済み資材を再利用可能なモジュールに再構成
- 生成AIによるコンテンツ生成:最新の科学的知見、作用機序、用法用量の詳細などを用いて、全く新しいコンテンツを生成
- メタデータとタグ付けの自動化:日本のコンテンツオペレーションにおける最大のボトルネックの一つを削減
- コンテンツ・資材ライブラリの管理:検索性、バージョン管理、再利用を改善
- 顧客反応評価:エンゲージメント指標と現場のフィードバックを分析し、コンテンツの影響度を測定
- 動的なパーソナライゼーション:医療関係者のセグメントや行動に応じて、複数のコンテンツパターンを構成
- 戦略的インサイト:コンテンツの不足や重複、満たされていない教育ニーズを特定
サイロ化防止がAI活用の今後の課題
このとき、コンテンツオペレーションの各ステップで、AI活用をサイロ化させないことが重要です。サイロ化させることなく、一気通貫したAI導入を実現できれば、コンテンツオペレーションはただの制作サイクルから、CXの成果に直接結びつく継続的な改善ループへと昇華する可能性があります。
ただし、そのためには顧客対応能力を含むオペレーション全体と、より広範なエコシステム内でのAI統合に関する深い理解が必要であり、非常に難しいといえるでしょう。
加藤氏:コンテンツオペレーションへのAI統合では、3つの課題が際立つと考えています。
- 文化的・心理的な障壁:日本では、十分な検証を経ていないAI生成・処理コンテンツに対する慎重姿勢が強いため、ゼロリスク志向に傾きやすいでしょう。
- 投資・体制の課題:AIの導入時には、専門的な技術知識、プラットフォームの整備、部門を横断した統合が必要になる。グローバルとの整合性を欠いたローカル最適化は、組織内の投資を断片化させる可能性があります。
- エコシステム統合:コンテンツ制作、配信、パーソナライゼーションエンジン、分析がシームレスに接続されたとき、AIは最大の価値を発揮すると考えられる。サイロ化された導入では、全体のCX最適化が制限される可能性があります。
AIオペレーション変革の実現に向けた道筋
AIの価値は、組織のオペレーションモデル、技術基盤、ガバナンス体制の中で発揮されます。MLRレビューなどの領域における活用は発展途上にあり、万能の解決策は存在しません。
製薬企業の各部門は、AI活用の拡張を闇雲に急ぐのではなく、明確な目標を設定した上で仮説検証を重ねて成果を測るアプローチが不可欠です。
1.各部門で変革プロジェクトの目標を設定する
各部門のAIオペレーション変革に向けた目標としては、以下のような例が考えられます。
マーケティング部門
- 効率化・標準化されたMLRレビュープロセスによりコンテンツの市場投入までのスピードを向上
- コンテンツの健全性と品質管理の標準化
- コンテンツの健全性維持に費やされている外部協力会社のリソースを削減し、より創造性の高い業務に再配分
MLRレビュー部門
- ルーティンの管理業務から解放され、コンテンツの正確性やコンプライアンス確認に注力し、レビューの効率とスピードを向上
- MLRレビューに提出されるコンテンツの編集品質に対する信頼を向上
- 品質不備に起因するMLRレビューの差し戻しの削減
オペレーション部門 (コーディネーター、スペシャリスト、エディター)
- 標準化されたMLRレビューで煩雑な「ライブミーティング」を削減
- セーフティネットとなるコンテンツ品質チェックの効率的な支援を実施
- 全コンテンツを精査するのではなく、高付加価値のタスクに注力
外部協力会社(コンテンツクリエイター)
- 効率的でサポートされた編集・校正とコンテンツ品質チェック
- コンテンツ品質のためのセーフティネットとして、MLR部門との信頼関係を構築
- MLR部門から生じる編集上の変更による手戻りを削減
2.価値の高いパイロットプロジェクトに総力する
AIは、ライフサイエンス業界全体で急速な投資、テスト、実験の時代をもたらしました。しかし、多くのパイロットプログラムのうち、真のビジネス価値をもたらすものはわずかです。例えば米Johnson & Johnsonは、社内の生成AIユースケースのわずか10~15%のみが高い価値を生み出していたことを発見し、選択と集中に舵を切っています1)。
加藤氏:コンテンツのパイロットプロジェクトを成功させるには、成果に向けた意識と体制が重要です。
- 明確なビジネスニーズと関係者の意欲
目的に十分な説得力があれば、担当者は行動しない理由を探すのではなく解決策に集中します。 - グローバルとの整合性と協業
グローバルの知見を活用することで、導入を加速し、コストを削減し、スケーラビリティを確保できます。 - 部門横断でのオーナーシップ
MLR、メディカル、マーケティング、CX/オムニチャネル部門は、共通のKPIを持ち、その達成に向けて協働すべきです。
AI変革の実現に向け、バランスを取りつつ戦略へ組み入れを
ライフサイエンス企業はAI活用により50億〜70億ドルの価値を得る可能性があり、その総額の25〜35%がコマーシャル部門でのAI活用によるものである可能性があると、2024年の調査レポートで予測されています2)。企業の独自のロードマップと共に進化できるAIソリューションは、高い投資収益率をもたらすでしょう。
さらに、医療関係者へのアンケート調査3)によると、回答者の62%が、製薬企業のフィールド担当者が提供できる付加価値として、「私たちのニーズを理解し、関連性の高いコンテンツのみを共有して、洞察に富んだ対話をできること」が最も重要だと回答しています。自動化と人間による接点のバランスを見つけることで、パーソナライズされた関係を構築することが重要です。
有意義なCX向上のためには、AI、自動化、プロセス改善を戦略的に実行する必要があります。AIによる変革の戦略には、以下の観点が重要だとVeevaは考えます。
1.AIプロバイダーと信頼できる関係を築く
信頼できるAIプロバイダーは、イノベーションに必要な先行投資と、長期的なメンテナンスのためのリソースを投入します。AI導入企業側は、AI計画のロードマップを示し、フィードバックの道筋を提供すべきです。
2.拡張性を重視する
コンテンツプラットフォーム内で機能するように設計されていない、またはビジネスインテリジェンスツールとの複雑な統合を必要とするカスタムAIツールは避けてください。AIを大規模に展開するために不可欠な標準タクソノミー(分類)などの基礎的な作業を考慮してください。
3.AIを戦略の一部として扱う
AIの導入を進める間も、インサイトやオペレーショナル・エクセレンス(業務の卓越性)といった戦略上の優先事項への投資を維持する必要があります。AIへの投資や統合は戦略的に進めなければ、限られたリソースを浪費し、本来のビジネス目標から逸脱する可能性があります。
4.標準作業手順書(SOP)を定義する
AI製品をオペレーションに組み込む前に、関係者とユーザー向けのガイドラインをつくり共有します。知識とスキルギャップに対処するチェンジマネジメントの文化を醸成し、人を最優先に考えます(ピープルファースト)。
5.単一領域に焦点を当てる
AI活用の投資対効果(ROI)を最大化するために、取り組む施策は慎重に選択します。
6.最初から完璧を求めず改善していく
AI実装は一度で終わるものではないため、実装の前後で比較を行いましょう。前後での比較は、AIの追加投資の決定に対する調整や支援に役立ちます。
コンテンツ運用の精度と速度を両立するために、AI活用の模索は必須であり、様子見していると手遅れになりかねません。コンテンツチームが患者アウトカム向上とビジネスの成功に向けて取り組むために、有用なツールの導入と、それに伴うプロセス改善は今まさに必要といえるでしょう。
<出典>※URL最終閲覧日2026.03.17
1)Johnson & Johnson Pivots Its AI Strategy, The Wall Street Journal (https://www.wsj.com/articles/johnson-johnson-pivots-its-ai-strategy-a9d0631f)
2)Realizing the value of artificial intelligence in life sciences, Deloitte Consulting(https://www.deloitte.com/us/en/Industries/life-sciences-health-care/articles/value-of-genai-in-pharma.html)
3)The Digitally-Savvy HCP Learnings to Engage HCPs Around the World More Effectively and Efficiently, indigene(https://www.indegene.com/what-we-think/reports/digitally-savvy-hcp)
■ゲスト寄稿者
加藤 圭 氏
アステラス製薬株式会社 オムニチャネル戦略・オペレーション担当ディレクター
アステラス製薬株式会社、グローバルオムニチャネル戦略・オペレーション組織に所属し、日本事業においてDirectorを務める。日本と欧州を拠点に、オンコロジーや神経・精神疾患領域を中心としたグローバルおよび日本市場のブランド戦略、オムニチャネル変革を10年以上にわたりリードしてきた。グローバルおよび主要マーケットにおいて、ブランド戦略と連動した顧客体験設計、データ・AIを活用したエンゲージメントを推進。グローバルとローカル双方の視点を活かし、メディカルとコマーシャルを横断した顧客エンゲージメント構築に取り組んでいる。
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