医薬品だけじゃない!?医療機器の情報提供や販売を担う製薬企業

医薬品だけじゃない!?医療機器の情報提供や販売を担う製薬企業

年初から能登半島の大地震や、羽田空港での事故などが起きており、心が痛みます。被害に遭われた方々にお悔やみを申し上げると共に、1日でも早い復興を心から願っています。

新年、最初の寄稿記事は、医療機器を取り扱う製薬企業の増加について取り上げます。

ここ数年で、医療機器の情報提供や販売を担う製薬企業が増えてきました。2023年にも、いくつかの製薬企業がプレスリリースを発表しています。今や医薬品だけの情報提供だけではなくなってきた製薬業界。今日はそれらの情報を取り上げ、製薬企業が医療機器の情報提供を担うようになった背景や、今後の事業の方向性について考察を深めていきたいと思います。

■「製薬×医療機器」具体的事例 in 2023

まずは、2023年にニュースとして取り上げられた具体的事例を下記にまとめます。多くの製薬企業で医療機器に関するプレスリリースが発表されました。

製薬企業

プレスリリース日付

事例

協業企業

沢井製薬

(*1)

2023/12/26

沢井製薬は、片頭痛の急性期治療に用いる医療機器「レリビオン」について、2023年12月22日に厚生労働省から製造販売承認を取得したと発表。「レリビオン」は、電気などの刺激によって神経機能を調整する非侵襲型ニューロモデュレーション機器で2024年中の発売が予定されている。片頭痛の急性期治療に在宅で使用されるニューロモデュレーション機器としては、日本で初めての承認。

ニューロリーフ社

日本ベーリンガーインゲルハイム

(*2)

2023/11/30

線維化を伴う間質性肺疾患の検出支援を行うAI医療機器「BMAX」の承認取得・提供を開始

2020年12月に発表された業務提携に基づき共同開発を進めてきた、線維化を伴う間質性肺疾患検出支援プログラム BMAXについて、2022年9月にエムスリーグループによる薬事申請を行い、製造販売承認(※1)を取得。2023年11月よりエムスリーAIプラットフォームでの提供を開始。

※1 エムスリーの子会社であるコスモテック株式会社(本社:東京都文京区、代表取締役社長:大湊 卓)が製造販売業を担い、承認を取得

BMAXは、胸部単純X線画像を解析することで、線維化を伴う間質性肺疾患(線維化ILD)にみられる所見を検出し、その確信度スコアを提示するプログラム。国内医療機関の4,000枚以上の検査画像データを学習データとして用い、ディープラーニングを活用して開発された。

エムスリー

塩野義製薬

(*3)

2023/11/27

塩野義製薬は、2023年11月27日、アイリスが開発・製造・販売を手がけるAI搭載の咽頭内視鏡システム nodoca®(販売名nodoca(ノドカ))のプロモーション協力契約を締結。

nodocaは、咽頭(のど)の画像と問診情報等をAIが解析し、インフルエンザに特徴的な所見等を検出することでインフルエンザの診断に用いるAI医療機器。

この契約により塩野義製薬のMR職(医薬情報担当者)が日本全国の医療従事者に、AI搭載のインフルエンザ検査機器であるnodocaの情報提供を行うことで、インフルエンザ流行期の感染症診療の課題解決に寄与することが期待される。

アイリス

持田製薬

(*4)

2023/9/11

セルソースが提供する血液由来加工受託サービスについて、持田製薬が販売支援を行う提携契約を締結。持田製薬は、バイオマテリアル事業本部医療機器営業部を通じて整形外科領域の医療機関にセルソースの血液由来加工受託サービスの紹介を行う。

血液由来加工受託サービスとは、自家血液由来サイトカイン・PFC-FD™の加工を医療機関より受託するサービス。PFC-FD™は、局所に投与することで組織の修復や疼痛軽減、機能回復の効果が期待されることから、整形外科疾患である変形性関節症やスポーツ傷害の治療、産科・婦人科における不妊治療などに活用されている。

セルソース

アステラス製薬

(*5)

2023/7/19

アステラス製薬はEko社のデジタル聴診器Eko CORE 500™を心不全に対するデジタルセラピューティクスとしてWelldoc社と共同開発中のZ1608に統合することで合意した。

Welldoc社

Eko社

持田製薬

(*6)

2023/6/30

持田製薬はAUSPICIOUSの整形外科領域の医療機器製品の販売における業務提携基本契約を締結。具体的には、AUSPICIOUSの「膝周囲骨切り術(AKO:Around the Knee Osteotomy)」関連製品等について具体的な協議を進める予定。

AUSPICIOUS株式会社は、整形外科領域において、下肢変性疾患に苦しむ患者さんのQOL向上のために、医師や研究者と連携し、膝関節温存手術を中心とした治療法の開発やそれを具現化するための医療機器の研究開発に取り組んでいる。

AUSPICIOUS

アステラス製薬

(*7)

2023/3/29

アステラス製薬、Welldoc社、ロシュDCジャパンによる開発提携。アステラス製薬とWelldoc社が共同で製品化を目指すBlueStar®をロシュDCジャパンの血糖自己測定器アキュチェックガイドMeとの組合せ医療機器として2023年度中に日本で臨床試験開始予定。

Welldoc社

ロシュDCジャパン

塩野義製薬

(*8)

2023/2/15

サスメドが開発した不眠障害治療に用いるアプリ「サスメド Med CBT-i 不眠障害用アプリ」が医療機器製造販売承認を2023年2月15日に取得。保険適用と上市に向け、準備中。

販売を塩野義製薬が担う。

サスメド

■ここ数年で加速している「製薬」×「医療機器」の流れ

上記に記載した具体的事例のように、ここ数年で製薬企業がデジタルセラピューティクスを含む医療機器開発および開発を事業に取り入れる動きは活発になっています。

2023年以前の情報ですと、例えば、住友ファーマはフロンティア事業部を立ち上げ、いくつかの医療機器開発を手がけています。2022年9月には、株式会社メルティンMMIと共同で開発した「MELTz®手指運動リハビリテーションシステム(一般的名称:能動型展伸・屈伸回転運動装置)」の販売を着手しており、同社のフロンティア事業の最初の製品として、回復期リハビリテーション病棟を中心にMELTz®の販売を開始しています9)

また第一三共や沢井製薬はデジタルセラピューティクスである治療用アプリの開発を手がけるCureAppと提携しています。第一三共は医療機器承認取得を目指したがん治療を支援するモバイルアプリケーションの共同開発契約(2020年)10)、沢井製薬はNASH(非アルコール性脂肪肝炎:Non-Alcoholic Steatohepatitis)領域におけるDigital Therapeuticsの開発及び販売ライセンス契約を締結(2022年)11)しています。

ほかにも多くの製薬企業が、医療機器開発企業と共同開発や販促提携に動いています。

■製薬企業の医療機器開発や提携の今後の方向性の予測

ここ数年の「製薬企業」×「医療機器」の組み合わせが加速してきた背景には、大きく2つの方向性があると思っています。

1つは、収益源を薬だけに頼らないとするビジネスモデルへの挑戦です。

これは新たな医療機器を開発し、そこからの収益を図ろうとする動きです。沢井製薬の片頭痛の急性期治療医療機器である「レリビオン」や住友ファーマが情報提供を開始した「MELTz®手指運動リハビリテーションシステム(一般的名称:能動型展伸・屈伸回転運動装置)」が該当するかと思います。また、持田製薬の整形外科領域における医療機器企業との提携は、自社の持つ整形外科領域に対する営業力という強みを活かして、医薬品以外の部分から収益源を確保する動きだと言えます。

もう1つは、本業である医薬品の売上増加を見込んだものです。

ベーリンガーインゲルハイムがエムスリーと共同開発した線維化を伴う間質性肺疾患の検出支援を行うAI医療機器「BMAX」は、同社が注力しているオフェブ(適応症:特発性肺線維症、全身性強皮症に伴う間質性肺疾患、 進行性線維化を伴う間質性肺疾患)のビジネスに貢献することが予想されます。また、塩野義製薬がアイリスと提携したAI搭載の咽頭内視鏡システム nodoca®は、同社が注力している抗インフルエンザ治療薬ゾフルーザ(適応症:A型又はB型インフルエンザウイルス感染症の治療及びその予防)のビジネスに貢献することが予想されます。

後者は、おもに診断を補助するAI医療機器の開発・販売に該当します。
個人的には、今後2〜3年の流れとして、この後者の動きがさらに加速すると予想しています。なぜなら自社の注力している医薬品の売上に貢献でき、かつ医療機器の販売を通じても収益が発生する、いわゆるシナジー効果が期待できるビジネスモデルだからです。

特に診断の部分に関しては、こうした開発や提携がより活発になると予想します。診断の分野では、すでに医療機器×AIの流れが、ベンチャー企業を中心に日本国内で加速しています。

AIメディカル(胃がん鑑別内視鏡AI)やSplink,inc. (脳ドック用AI)など、医療機器にAIを実装し、医師の診断をサポートしようとする企業がここにきて台頭してきています。診断は、多くの疾患でアンメットニーズが満たされていない部分で課題が多い領域であり、多くの製薬企業も、この課題解決に取り組んでいます。

今後は、それらの分野に注力している企業と製薬企業との提携や共同開発といった動きが益々加速していくと予想します。もしかすると、自社で組織を内製化し、AI診断機器を開発しようとする製薬企業も出てくるかもしれません。

■変化に柔軟に対応する姿勢を

2023年のトレンドとしては、過去に共同開発もしくは提携を結んでいた医療機器が、開発に成功、承認を取得して、販売まで行うようになってきたことでしょう。

これまでの医薬品の情報提供と違い、機器の使い方の説明や、デモンストレーション、場合によっては患者さんに実際に使う際の立ち合い業務など、医療機器営業が実施しているような営業スタイルがMR(医薬情報担当者)にも求められる時代に入ってきました。

その変化に戸惑う方も、なかにはいるかもしれません。

しかし、時代が移り変わることで、事業の方向性やあり方は変化していきます。その流れを適切に掴み、変化に柔軟に対応することが企業や人材一人一人に求められることです。私自身にも言えることですが、変化に柔軟に対応し、その変化を楽しみながら、医療現場に貢献できる情報提供や貢献をしていきたいと考えています。

本記事の内容が皆さまの日々の業務にお役に立ったのであれば嬉しく思います。以下、運営しているブログの中では、製薬企業で勤務する上で役に立つ情報やマインドセットについても発信しています。良かったらご覧ください。

Twitter:https://twitter.com/seiyaku_career
ブログ:https://seiyakucareer.com/

<出典>※URL最終閲覧日2024.1.10
1)沢井製薬, 2023.12.26, 非侵襲型ニューロモデュレーション機器「レリビオン®」製造販売承認取得(片頭痛の急性期治療)のお知らせ|プレスリリース (https://www.sawai.co.jp/release/detail/625
2)日本ベーリンガーインゲルハイム, 2023.11.30, エムスリーと日本ベーリンガーインゲルハイムが共同開発した線維化を伴う間質性肺疾患の検出支援を行うAI医療機器「BMAX」の承認取得・提供開始 | Boehringer Ingelheim Japan (https://www.boehringer-ingelheim.com/jp/press-release/20231130-01
3)PR TIMES, アイリス, 2023.11.27, アイリスと塩野義製薬、AI医療機器「nodoca」のプロモーション協力契約を締結(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000038.000035813.html
4)セルソース, セルソースと持田製薬、 血液由来加工受託サービスの販売支援に関する提携契約を締結(https://www.cellsource.co.jp/news/20230912_2/
5)アステラス製薬, 2023.7.19, アステラス製薬 Eko社のデジタル聴診器Eko CORE 500™を心不全に対するデジタルセラピューティクスとしてWelldoc社と共同開発中のZ1608に統合することで合意 (https://www.astellas.com/jp/news/28181
6)AUSPICIOUS, 2023.6.30, 持田製薬との業務提携基本契約締結のお知らせ(https://www.auspi.co.jp/assets/common/newsrelease_230630.pdf
7)アステラス製薬, 2023.3.29, アステラス製薬、BlueStar®を用いた糖尿病マネジメントソリューションを日本で開発・商業化するためにロシュDCジャパンとパートナーシップ契約締結(https://www.astellas.com/jp/news/27531
8)サスメド, 2023.2.15, 不眠障害治療において患者と医師を支援するアプリの医療機器製造販売承認取得について
https://susmed.co.jp/wp-content/uploads/2023/02/426320230215001.pdf
9)住友ファーマ, 2022.9.30, 「MELTz手指運動リハビリテーションシステム」の販売提携契約締結および新発売のお知らせ | 住友ファーマ株式会社 (https://www.sumitomo-pharma.co.jp/news/20220930.html
10)第一三共, 2020.11.18, がん治療を支援するモバイルアプリケーション開発提携のお知らせ(https://www.daiichisankyo.co.jp/media/press_release/detail/index_6538.html
11)沢井製薬, 2022.8.2, 株式会社CureAppとNASH領域におけるDTxの開発及び販売ライセンス契約を締結(https://www.sawaigroup.holdings/release/detail/24)