製薬マーケターのためのペルソナ設計【実践編】ユーザー理解を深める状況ターゲティングの進め方

製薬業界でも広く活用されているペルソナ設計ですが、属性情報だけでは医師や患者の実際の行動や意思決定を予測できません。UX時代に求められるのは、ユーザーが「どのような場面でどのように考え、意思決定をするか」まで踏み込んだ理解です。本記事では、他業界で成果を上げている「状況ターゲティング」の手法を製薬マーケティングに応用し、従来のペルソナを進化させる方法を解説します。
- 適切な状況ターゲティングを実行するために
- 1. ユーザーインタビューで直接的なフィードバックを得る
- 2. 行動観察を行い、実際の使用状況を観察する
- 3.データ分析を通じてユーザーの行動パターンを把握する
- ユーザーインタビューで直接的なフィードバックを得る
- インタビューの設計
- 実施方法
- フィードバックの分析
- 行動観察を行い、実際の使用状況を観察する
- 観察の準備
- 観察の実施
- 観察結果の分析
- データ分析を通じてユーザーの行動パターンを把握する
- データ収集
- 行動パターンの分析
- インサイトの活用
- 顧客中心の製品・サービス提供のための重要なポイント
- ペルソナから状況ターゲティングへのシフト
- UX設計におけるユーザー理解の重要性
- 結果を出せるUX、ペルソナ設計、状況ターゲティングのために
【本シリーズの入門編、発展編は以下よりご覧ください】
製薬マーケターのためのペルソナ設計【入門編】基本の作成プロセスと切り口を解説
製薬マーケターのためのペルソナ設計【発展編】UX時代に求められるペルソナの進化と状況ターゲティング
適切な状況ターゲティングを実行するために
状況ターゲティングは、一見すると従来のマーケティングリサーチやデプスインタビューなどとの違いが分かりにくいため、「自分たちがこれまでやってきたリサーチをやればいい」という誤解も生じがちです。
状況ターゲティングで継続的に成果を出し続けるためには、1回限りの分析と検討を行うだけでは不十分で、ユーザー理解を深めるためには、高速改善と抜本改善の2つのアプローチの概念を理解し、実行する必要があります。
高速改善:日常的なデータ分析やユーザーの行動を基にした迅速な改善
抜本改善:定性調査や市場理解を通じて深いインサイトを得る
これを踏まえ適切な状況ターゲティングを実行するためには、以下の3つがポイントになります。
1. ユーザーインタビューで直接的なフィードバックを得る
定性調査は、ユーザーの実際の行動や思考を理解するための重要な手段です。これにより、ユーザーがどのように製品やサービスを利用しているのか、またその背景にある心理や状況を把握することができます。
2. 行動観察を行い、実際の使用状況を観察する
定性調査に加え、行動観察はユーザーが実際に製品やサービスを使用する状況を理解するのに役立ちます。
3.データ分析を通じてユーザーの行動パターンを把握する
ここまでで得られたユーザーインタビューと行動観察結果、その他の定量データを分析し、ユーザーの行動パターンを把握することで、より深いインサイトを得ることができます。
以下より、詳しく解説します。
ユーザーインタビューで直接的なフィードバックを得る
定性調査(ユーザーインタビュー)は、ユーザーの意見や感情を直接聞くための非常に効果的な手法です。この方法では、ユーザーが製品やサービスをどのように感じ、どのように使用しているかを深く理解することができます。具体的には、以下のプロセスで実施します。
インタビューの設計
インタビューを行う前に、目的を明確にし、質問を設計します。
オープンクエスチョンを用いることで、ユーザーが自由に意見を述べられるようにします。例えば、「この製品を使ってどのような体験をしましたか?」「その体験をしたことで、どう思いましたか?」といった、回答者の回答をさらに深掘りする質問が有効です。
実施方法
インタビューは多くの場合、対面、電話、またはオンラインで行うことができます。特に対面の場合、ユーザーの非言語的な反応も観察できるため、より深い洞察が得られることがあります。
また、その際はグループインタビューよりも1対1のデプスインタビューを行うことをおすすめします。グループインタビューの場合は、発言力が大きい人の回答にグループ全体が引っ張られたり、言いたくても言えない人が生じたりすることがあるからです。言いたくても言えない人の回答にも、有益なインサイトが含まれていることがあります。
フィードバックの分析
インタビュー後は、得られた情報を整理し、共通のテーマやパターンを見つけ出します。このプロセスにより、ユーザーのニーズや不満点を明確にし、製品やサービスの改善に役立てることができます。
行動観察を行い、実際の使用状況を観察する
行動観察は、患者の行動パターンや使用状況を理解するのに非常に効果的です。例えば、喘息治療の吸入ステロイドのデバイスを患者がどのように操作しているのかを一連の行動で把握しやすくなります。
観察の準備
観察を行う前に、観察する環境や状況を設定します。
例えば、特定の製品を使用しているユーザーの行動を観察する場合、実際の使用環境で行うことが重要です。
観察の実施
ユーザーが製品を使用している際の行動を観察します。
どのように製品を操作しているか、どのような問題に直面しているか、どのような感情を抱いているかを注意深く記録します。
観察結果の分析
観察後は、収集したデータを分析し、ユーザーの行動パターンや使用上の課題を特定します。
例えば、前述の吸入ステロイドであれば、そのデバイスの操作方法が正しく行われているかなどを観察します。
この情報は、製品の改善点を見つけるための貴重な手がかりとなります。
データ分析を通じてユーザーの行動パターンを把握する
データ分析は、ユーザーの行動を定量的に把握するための重要な手法です。特に、デジタル製品やサービスにおいては、ユーザーの行動データを収集し、分析することで、具体的なインサイトを得ることができます。
データ収集
ペルソナ作成にあたり、前述のインタビューの情報だけでなく、Webサイトやアプリの使用状況も追跡し、データ化したものも活用しましょう。これにより、医師の自社サイトなどへの訪問数、滞在時間、クリックパターンなどのデータを収集できます。患者向けに提供しているサービスでも、同様のデータが収集・活用できるはずです。
行動パターンの分析
収集したデータを分析し、医師がどのようにして情報を収集しているか、患者がどのように製品を使用しているかなどを理解します。
例えば、特定の機能がどれだけ使用されているか、どのページでユーザーが離脱しているかなどを把握することもできます。
インサイトの活用
分析結果を基に、ユーザーのニーズや行動パターンを理解し、製品やサービスの改善に役立てます。
データに基づいた意思決定を行うことで、より効果的なUXデザインが可能になります。
顧客中心の製品・サービス提供のための重要なポイント
ユーザー理解を深めるためには、ユーザーインタビュー、行動観察、データ分析の三つの方法を組み合わせることが重要です。これは患者理解、医師理解を深める際にも有効です。
これらの手法を活用することで、医師や患者のニーズおよび行動をより正確に把握しやすくなります。その結果、自社が提供しているWebサイトやWebサービス、患者への行動変容を促す各種サービスのUXデザインに活かすことができます。
多くの製薬企業が「患者中心の医療の提供」を掲げていますが、実際にどこまで徹底できているかは企業によって全く異なります。
改めて、医師や患者中心のアプローチを採用することで、より良い製品やサービスを提供することが可能になることでしょう。
その際に重要なポイントを、以下にまとめます。
ペルソナから状況ターゲティングへのシフト
従来のペルソナには限界があることを認識し、より精緻なペルソナを検討するために「状況ターゲティング」にシフトしましょう。状況ターゲティングを実践することによって、UXデザインはより効果的になります。医師や患者の具体的な状況を一層深く理解できるので、PSPやWebサイト、アプリなどの利便性や有益性が大きく改善・向上し、医師や患者により適切なサービスや製品を提供できるようになります。このことは、競合との差別化の重要な要因になります。
UX設計におけるユーザー理解の重要性
医師や患者向けのサービスの開発において、ユーザー理解は不可欠です。ニーズや行動を深く理解することで、より良い体験を提供し、顧客満足度を向上させることができます。
ここで重要なポイントは、どれくらい深く医師や患者の行動や思考を理解できているか?それは競合他社以上に深いのか?ということです。
結果を出せるUX、ペルソナ設計、状況ターゲティングのために
今後のUXデザインでは、状況ターゲティングを取り入れ、ユーザーの具体的な行動やニーズに基づいた設計を行うことが求められるでしょう。これは製薬業界でも同様です。これにより、より効果的なマーケティング戦略を構築し、ユーザーにとって価値のある体験を提供することが可能になります。
したがって、今後プロダクトマネージャーは、「自社医薬品が競合医薬品とどのように違うのか?」といった差別化要因を論文などから探索するだけでは不十分です。「医師や患者に提供可能な価値が何か?」を明確にするため、医師や患者理解を徹底して深める活動が、一層求められていくでしょう。
そのためにも、今回ご紹介したペルソナ設計と状況ターゲティングを組み合わせたアプローチで、医師や患者について限界まで理解していきましょう。そこから導き出された自社医薬品のメッセージは、医師や患者に深く響き、その医薬品が提供する価値とともに伝わります。ぜひ今日から実践を始めてみてください。
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