CES2024基調講演編|最先端テクノロジー企業3社のプレゼンと注目すべきデジタルヘルスの先端技術

CES2024基調講演編|最先端テクノロジー企業3社のプレゼンと注目すべきデジタルヘルスの先端技術

2024年1月18日(木)に日本マーケティング協会主催で行われたセミナー「最先端テクノロジーの祭典 CES2024速報レポート」。本セミナーでは、2024年1月9日(火)〜1月12日(金)米ラスベガスで開催された世界最大級の民生技術展示会「CES 2024」を取材した、株式会社ディライトデザイン代表 法政大学大学院 客員教授 朝岡崇史氏がその見どころやトレンドをマーケター視点で考察しました。本レポートでは、CES2024で注目された基調講演のポイントをご紹介します。

秀逸だった3社の基調講演。各社とも明確なビジョンのもと、よりよい顧客体験を創出し、事業とサステナビリティを両立

CES 2024の基調講演は、会期前を含めて6回行われました。そのうち、最先端テクノロジー企業であるシーメンス、ロレヤル、ウォルマートの3社による基調講演をピックアップして紹介します。

基調講演(keynote)充実していたCES2024
(公社)日本マーケティング協会, (株)ディライトデザイン「生成AIが変える顧客体験(CX/EX) -CES2024が示す世界の最先端テックトレンド-」資料より抜粋。写真の出典はCES@tech

朝岡氏は3社の基調講演が秀逸だったとする理由として、次の3点を挙げました。

  • 企業のブランド資産や組織文化を踏まえた上で、経営トップが明確な事業ビジョンを発信している
  • 生成AIを始め、メタバース技術など最先端テクノロジーを導入して新しい顧客に新しいサービスを提供する「探索型のイノベーション」を起こし、豊かなお客さま体験(CX)の創出や従業員の働き方改革(EX)につなげている
  • 人間の生存を脅かす「ヒューマンセキュリティ」(脱炭素やサステナビリティ)に対して高い視座で真摯に向き合い、環境問題や社会課題の解決に貢献している


以降、それぞれの基調講演の要点について紹介します。

生産システム、メディカル、サステナビリティなど生活のあらゆる領域を変革するシーメンスの「産業用メタバース」

シーメンスのローランド・ブッシュCEOの基調講演では、産業用メタバース(Industrial Metaverse)として「Siemens Xcelerator」(シーメンス・エクセラレーター)が紹介されました。これは、生成AIと没入型エンジニアリングを駆使したオープンビジネスプラットフォームです。仮想空間に現実世界とほとんど区別がつかないデジタルツインを作り、AIと組み合わせることで、現実世界の課題を仮想空間でシミュレーションすることができます。システム開発にはChatGPTを提供するOpenAIを傘下に持つマイクロソフトが参画しており、さらにクラウドを提供するAWSともパートナーシップを強化し、あらゆる規模・業種の企業が生成AIアプリケーションをより簡単に構築、スケーリングできるようにするとのことです。

「Siemens Xcelerator」のユースケースとしてソニーの松本義典副社長が登壇し、レーシングカーのステアリングの開発にあたって、エンジニアが3Dで設計したステアリングを仮想空間で確認したり、遠隔地のデザイナーとコラボレーションしたりする様子(イマーシブ・エンジニアリング)が紹介されました。



続いて紹介されたのが、生成AIを活用した「がんの適応放射線治療システム」です。これは生成AIが診断画像内のがんを検出し、即時に患部周辺の2D/3Dの画像データを作成するものです。さらに、がん腫瘍への放射線の照射を効率化・最大化するために、どこに照射すべきか、照射すべきでないかを的確に示します。医師にはそれぞれの患者にパーソナライズされた治療計画が提供されるだけでなく、治療が開始され患者の治療データが集積されると、ビッグデータの解析によりグルーピングを行い、グループごとの治療予測モデルを構築するというものです。

AIを活用した「がんの適応放射線治療システム」
(公社)日本マーケティング協会, (株)ディライトデザイン「生成AIが変える顧客体験(CX/EX) -CES2024が示す世界の最先端テックトレンド-」資料より抜粋。写真の出典はCES@tech

また、サステナビリティへの取り組みとしては、ロボット義肢設計のスタートアップUnlimited Tomorrow社のユースケースが紹介されました。「Siemens Xcelerator」を使って、義肢の設計で大幅な省力化を実現、手頃な価格でカスタマイズ可能かつ拡張性のある義肢装具の設計が可能になっているということです。

化粧品業界の老舗企業ロレアル、ビューティーテクノロジーの次の時代を定義する

今年のCESのハイライト、ロレアルの基調講演では、ニコラ・ヒエロニムスCEOが颯爽と登壇しました。生成AI、センサー技術、拡張現実などを駆使してビジネスを成長させるだけでなく、水資源の保全やアクセシビリティなどヒューマンセキュリティにも貢献していることがプレゼンテーションされました。

注目されたのが、パーソナル・ビューティ・アドバイザー「Beauty Genius」(ビューティ・ジーニアス)です。これは、生成AIを活用した自然言語による対話型のアプリで、顔の肌をスキャンして分析し、その人に合わせた最適なメイクやスキンケア製品のおすすめをしてくれるという優れものです。

イベントでは、副CEO バーバラ・ナベラス氏がBeauty Geniusに、CESでの登壇のためのメイクアップの相談をする動画が流れました。口紅やアイラインをアドバイスされた後、アイラインの引き方のコツなどもAIが教えてくれます。その動画が終わると、ナベラス氏が生成AIのアドバイス通りのメイクでステージに登場し、会場を湧かせました。

▼副CEO バーバラ・ナベラス氏がBeauty Geniusに、CESでの登壇のためのメイクアップの相談をする動画はこちら
https://www.youtube.com/live/pArGshMSoNo?si=JlzmEdSjcC2E0uyS&t=2749


また脳性麻痺や脊髄損傷によって手や腕の動きが不自由な人のための化粧ソリューション「HAPTA」(ハプタ)は、AIがユーザーの動きを学習し、モーターでアシストするデバイスです。高度なセンサーとセルフレベリング・ヒンジシステムの採用で、手・腕の動きが不自由でも自分で口紅を塗ることができます。講演では、障害のある人が実際に「HAPTA」を使ってキレイに口紅を塗る様子や、使った印象を語る動画が流されました。自分の思い通りに口紅を塗るという機能的なベネフィットだけでなく、自分でメイクできることで、利用者が生きる自信を取り戻すというカスタマーサクセスへの貢献が評価され、動画が再生された後は聴衆から拍手が起こっていました。



他に、69%もの水の節約に貢献するサロン向けの節水シャワーヘッド「WaterSaver」(ウォーターセイバー)や、赤外線光線を空気で包み込んで加熱することで乾燥時間を30%、電力を28%削減しながら髪を乾燥させるヘアドライヤー「AirLight Pro」(エアーライトプロ)などが紹介されました。

従業員体験(EX)の改善を先に行い、その成果を顧客体験(CX)にも活かすウォルマート

ウォルマートの基調講演では、コロナ禍でCESがデジタル開催のみになった2021年に続いてダグ・マクミロンCEOが登壇しました。ウォルマートは最先端テクノロジーを駆使して、全世界210万人の従業員がより良いキャリアを生み出す方向に進むこと、それは同時により良い顧客エクスペリエンスとより強力なビジネスを生み出すことに直結することをコミットしました。

基調講演にはマイクロソフトのサティア・ナデラ会長&CEOがゲストとして登場し、両社の戦略的パートナーシップ強化により、生成AIの導入をさらに加速していくことを示しました。まずは従業員向けアプリ「Me at Walmart」(ミー・アット・ウォルマート:勤怠管理、給与管理、福利厚生などを行う)で生成AIを導入し、生成AIの活用で働き方が効率化されることを体験してもらい(EXの改善)、その後、顧客向けの商品検索サービスアプリなどに生成AIを組み込むことで、新たな買い物エクスペリエンスを構築していく(CXの改善)道筋を示しました。

また、ウォルマートアプリに生成AIを使った検索機能を追加したソリューションや生成AIとARを駆使した新たなオンラインショッピング体験「Shop with Friends」(ショップ・ウィズ・フレンズ)が紹介されました。「Shop with Friends」は、ユーザーがスマホの画面上でARを使って洋服の試着シミュレーションができるだけでなく、SNSで友達に共有して意見を求めることができるという機能が特徴です。

▼「Shop with Friends」の紹介動画はこちら
https://www.youtube.com/live/uHKFP_Y-FF8?si=WRRb_9xcmnJLycsl&t=1360

他に、顧客の時間を節約する新たな買い物体験として、レジに並ぶ時間を節約するために、アプリのスキャン機能と認証技術を使ってレジを省略できる会員制ホールセールクラブ(サムズクラブ)の「Exit Technology」(エグジット・テクノロジー)、従業員が顧客の留守中に家の鍵を開け、冷蔵庫の中に商品を配送してくれるだけでなく、生成AIが顧客の購買パターンを学習して食材がなくなりそうなタイミングでデリバリーしてくれる画期的なサービス「InHome Delivery」(インホーム・デリバリー)の強化版などが紹介されました。

顧客の時間を節約するための新たな買い物体験づくり
(公社)日本マーケティング協会, (株)ディライトデザイン「生成AIが変える顧客体験(CX/EX) -CES2024が示す世界の最先端テックトレンド-」資料より抜粋。写真の出典はCES@tech


ウォルマートの環境問題への取り組みとしては、2025年までに事業の50%を再生可能エネルギーでまかない、遅くとも2035年までには100%をクリーンエネルギーにすることが表明されました。全米で最大2GWの新たなコミュニティ型太陽光発電プロジェクトを開始し、2030年までには全米数千店舗でEVの高速充電器ネットワークを構築することも発表しました(ウォルマートの店舗は全米だけで約4800店舗もある。最も多くの電力を消費する事業者のひとつである)。

CES 2024の基調講演から見える2024年のトレンド

本記事では、CES 2024の基調講演について紹介しました。いずれの企業も、自社の事業の成長のために、生成AIなどの最先端技術を積極的に取り入れ、よりよい顧客体験(CX)、従業員体験(EX)の実現を目指しています。また、同時にダーバーシティ&インクルージョン(病気を抱える方や身体が不自由な方の生活をより良くするため)のテクノロジーや、脱炭素や水の保全など環境のための取り組みも注目されたポイントです。次回の記事では、出展各社の中から、特にデジタルヘルスに関連するトレンドをピックアップして紹介します。

本セミナーを主催した公益社団法人 日本マーケティング協会は、他にも最新のコンセプトやテクノロジー、トレンド、サクセス・ストーリーなどの紹介、新しい領域の開発、業界企業の最新動向など、企業が持続的成長を続ける上で欠かすことのできない「マーケティング」について、豊富な情報を発信しています。
https://www.jma2-jp.org/index.php