「なぜ」と「兆候」をとらえる電子カルテRWD活用の新たな可能性|MDMD2026 Summerレポート

「なぜ」と「兆候」をとらえる電子カルテRWD活用の新たな可能性|MDMD2026 Summerレポート

製薬企業におけるデータ活用が進む中、レセプトやDPCのデータを活用した市場分析や治療実態の把握は一般的になりつつあります。一方で、「なぜその診断や治療が選択されたのか」「いつ、どこに患者がいるのか」といった、より深いインサイトやリアルタイムな兆候の把握には課題も残されています。

「Medinew Digital Marketing Day(MDMD)2026 Summer」では、株式会社Yuimedi 事業開発の丸山賢志朗氏が、電子カルテデータを活用したリアルワールドデータ(RWD)の可能性について講演。従来のデータでは見えにくかったペイシェントジャーニーや治療選択の背景、さらには患者発生の兆候の把握など、製薬企業のマーケティング・メディカル活動における新たな視点を紹介しました。

レセプト・DPCデータでは見えない課題

近年、製薬企業ではレセプトデータやDPCデータを活用した治療実態分析が広く行われています。市場規模や推定患者数などの定量的な事象の把握に、これらのデータは重要な基盤的役割を果たしています。

 

一方で、医療の高度化・個別化が進む中、従来のデータだけではとらえきれない領域もあります。例えば、「どの患者に、なぜ薬が効くのか」「なぜその診断・処方が選ばれたのか」「どこに、いつ患者がいるのか」といった問いに対して、従来のデータでは情報量やデータ更新速度が障壁となり答えを得られないケースがあります。

 

Yuimediでは、こうした課題に対するアプローチの重要性に着目し、提携医療機関の電子カルテデータを活用したリアルワールドデータサービス「YuiData」をスタートさせたと、丸山氏は説明しました。 

電子カルテデータがとらえる診断・治療の背景

講演では、既存のRWDで把握できるのは「氷山の水面上に見える事象」であり、電子カルテデータは「氷山の水面下にある背景や要因」まで把握できる可能性を持つと紹介されました。

電子カルテデータだからこそ示せる次世代のインサイト
2026.6.4(株)Yuimedi『電子カルテデータが解き明かす「なぜ」と「兆候」:RWDによる製薬マーケティングの次世代戦略』資料より抜粋

電子カルテには、患者属性や診断名、検査値、処方・検査オーダー、遺伝子・バイオマーカー情報など、多様な情報が含まれています。

 

こうした情報を活用することで、

  • 診断確定までにどのような経過をたどったのか
  • どの検査が診断の決め手となったのか
  • どのような患者背景でその治療が選択されたのか

といった、従来のRWDでは見えにくかった部分へのアプローチが可能になります。

 

特にオンコロジー領域では、遺伝子・バイオマーカーの情報を起点とするジャーニー分析への期待が高まっており、より細かな患者セグメンテーションや戦略立案につながる可能性が示されました。

ジャーニー分析で診断・治療のボトルネックを可視化

電子カルテデータを用いたRWD活用サービス「YuiData」では、電子カルテの特徴を活かし、ペイシェントジャーニーを後ろ向き・前向きのいずれでも精緻に可視化できると、丸山氏は説明しました。

YuiDataの基盤となる2つのサービス
2026.6.4(株)Yuimedi『電子カルテデータが解き明かす「なぜ」と「兆候」:RWDによる製薬マーケティングの次世代戦略』資料より抜粋

電子カルテの統計値情報を駆使した後ろ向き調査「Deep Insight」では、検査値やバイオマーカー、医師の処方意図など、治療選択の背景にある「なぜ」を高解像度で紐解くことができます。

 

例えば希少疾患領域では、患者が確定診断に至るまでに複数回の受診や検査を要するケースや、治療が開始されても途中で脱落してしまうといったケースが少なくありません。

 

そこで、その過程を定量的に分析することで、

  • 診断までのボトルネック
  • 長期停滞が起きているポイント
  • 治療開始後の離脱要因

などを把握し、課題解決に向けた仮説の構築につなげることができます。

 

また、ファーストラインからセカンドライン、サードラインへの治療移行や治療選択の背景についても、実データを基に分析できます。

ジャーニーの深層を可視化し、介入の「ボトルネック」を特定する
2026.6.4(株)Yuimedi『電子カルテデータが解き明かす「なぜ」と「兆候」:RWDによる製薬マーケティングの次世代戦略』資料より抜粋

こうした「なぜ」は、医師へのインタビューコメントで得ることもできますが、一定のバイアスも懸念されると丸山氏は指摘。データドリブンに可視化することが、適切なセグメントを見定めるために重要なアプローチになると説明しました。 

未診断患者・治療候補患者をリアルタイムで把握

電子カルテデータを用いた前向き調査「Timely Monitoring」では、未診断患者や治療候補患者群を最短週次というスピード感でタイムリーに把握し、MRが活用できるようにすることを目指しています。

 

Timely Monitoringを起点としたアクションイメージの代表例として、丸山氏は以下の3つを挙げました。

 

  • 未診断患者の顕在化

特定の検査値や関連疾患の診断状況などを組み合わせることで、対象疾患が疑われる患者を抽出。専門医への紹介促進につなげる。

 

  • 早期治療介入

検査オーダーや診療イベントをトリガーとして、治療が開始される前のタイミングを把握。適切なタイミングでの治療介入を支援。

 

  • 治療切り替えの予兆検知

検査値悪化などの変化をアラート化。セカンドライン治療への移行タイミングを把握する。

 

そして、過去を分析するデータ(Deep Insight)と、次のアクションにつなげるデータ(Timely Monitoring)は、それぞれ独立したものではなく、シチュエーションに応じて使い分け、また組み合わせて使うことでインサイトの取得から、実際のアクションにつなげるまで、さまざまなフェーズの課題に対応できると丸山氏は強調しました。

YuiDataサービスサマリー:組み合わせ次第で、すべての課題フェーズに対応
2026.6.4(株)Yuimedi『電子カルテデータが解き明かす「なぜ」と「兆候」:RWDによる製薬マーケティングの次世代戦略』資料より抜粋

未診断患者の早期発見が示す電子カルテデータ活用の可能性

講演の終盤では、希少疾患領域における未診断患者の早期発見プロジェクトの事例も紹介されました。

 

この希少疾患は有病率が10万人に1人未満と推定され、特定の検査値が診断の重要な手がかりになりますが、非特異的所見のため非専門医で見過ごされやすいとされています。そこで、未診断の背景や潜在患者を推計するために、同社のソリューションを用いて検証。

 

検査値の変動と関連病名での診断に該当する患者をモニタリングした結果、未診断患者が一定数存在することや、特定の診療科において滞留が生じやすい可能性などが示唆されました。

希少疾患 未診断患者 早期発見プロジェクト
2026.6.4(株)Yuimedi『電子カルテデータが解き明かす「なぜ」と「兆候」:RWDによる製薬マーケティングの次世代戦略』資料より抜粋

この結果を受けて、次のフェーズではTimely Monitoringを用いた専門医連携モデルの構築を計画しています。さらに、それによる診断率の向上、診断の早期化が、治療継続率や寛解率といった患者アウトカムの向上につながるのかも検証し、リアルワールドエビデンスを創出することを目指していると、丸山氏は展望を語りました。

高解像度分析とリアルタイム把握を両立する時代へ

製薬企業を取り巻く環境は、患者の細分化や治療選択肢の多様化によってますます複雑になっています。

 

その中で、レセプトやDPCのデータによるマクロな市場把握に加え、電子カルテデータによる高解像度な分析やリアルタイムな兆候把握を組み合わせることで、より精度の高いマーケティング・メディカル戦略が可能になると考えられます。

 

今回の講演は、これまで踏み込めなかった臨床現場の「なぜ起きているのか」「次に何が起きるのか」を、データドリブンにとらえる段階へ進みつつあることを示す内容となりました。製薬マーケティングにおけるデータ活用を考える上で、多くの示唆を得られるセッションだったといえるでしょう。

 

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