セミナーレポート/実ビジネスにおけるデータサイエンス人材教育の必要性とSHIONOGIでの取り組み

セミナーレポート/実ビジネスにおけるデータサイエンス人材教育の必要性とSHIONOGIでの取り組み

「データサイエンスとのコラボが生み出す新しい価値−やりたいが繋がる場所−」をテーマとするオンラインイベント「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2023」が2023年3月1日に開催されました。本記事では、塩野義製薬 DX推進本部 データサイエンス部 松野匡志氏によるセミナー「実ビジネスにおけるデータサイエンス人材教育の必要性とSHIONOGIでの取り組み」についてレポートします。

製薬企業におけるデータサイエンスの重要性

デジタル化が進み、ステークホルダーのニーズも多様化している今、製薬企業ではDX、データサイエンスの重要性が高まっています。

さまざまな環境変化にさらされる中、これまで頼っていたKKD(経験、勘、度胸)による意思決定は、不確実でリスクが伴います。松野氏は「これからは信頼性のあるデータを活用しリアルタイムの意思決定をしていくことで、不確実性を軽減し環境変化に強い企業になれる。そういったデータドリブン型ビジネスへの変革をしていかなければいけない」と指摘します。

そのために同社ではデータサイエンス人材の育成に注力しており、セミナーではその基本的な考え方や3つの特徴について紹介されました。

データサイエンス人材の育成に必要な考え方

同社がデータサイエンス教育において重視していることは「アウトプットが何なのかを常に意識すること」だと言います。意思決定の高度化に付随して、プロダクトのアイデア、サービスのアイデア、あるいは業務効率化という結果にこだわることが重要になっているからです。

製薬企業の中には、研究から上市後の市販後調査などの各バリューチェーンのデータや、経理・財務、人事、ESG、広報など、さまざまなデータが存在しています。しかし、これらのデータを全て使いこなせていない点が課題です。

そのため、アウトプットを意識し、データを使いこなせる人材の育成が重要となります。

バリューチェーン保有データの例
2023.3.1 塩野義製薬(株)「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2023」講演資料より抜粋



実ビジネスでデータ活用しようとすると、そもそもデータがないところからスタートすることや、データ活用とビジネスが結びついてないというケースも往々にしてあります。「実ビジネスでデータサイエンスを行うには、まだギャップが大きいと感じる」と松野氏は語ります。

塩野義製薬におけるデータサイエンス教育の特徴

それでは、実ビジネスに繋げるためのデータサイエンス教育とはどのようなものなのでしょうか。松野氏は、同社におけるデータサイエンス教育の特徴を3つ紹介しました。

  1. マネジャーとスタッフの層別教育
  2. 実ビジネスでの課題とデータの使用
  3. データサイエンス部員が内製で研修を実施

マネジャーとスタッフの層別教育

1つ目の特徴は、マネジメント層、リソースを活用する層、データを使う層といった「層別での教育」を行っている点です。

データを活用すると一言で言っても、それぞれの立場によってやらなければいけないことは異なります。組織を代表するデータ活用のコア人材、その人材をうまく活用し確保していくマネジメント層への教育だけでなく、組織の中でデータサイエンスの会話を成り立たせるために多くのスタッフのリテラシーを高めるという幅広い教育も必要です。

同社では、これらの各層別にプログラムを作り、かつそれぞれのプログラムの連携を意識した教育を行っています。

人材課題への対応について
2023.3.1 塩野義製薬(株)「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2023」講演資料より抜粋



スタッフ向けの育成プログラムの中でも、プロフェッショナル、リーダー、リテラシーという層に分かれています。特に注力しているのはリーダー層です。組織のデータ活用を牽引する人材を少なくともグループに1名程度ずつ輩出していきたいとの考えです。

データドリブン人材強化の全体イメージ
2023.3.1 塩野義製薬(株)「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2023」講演資料より抜粋

実ビジネスでの課題とデータの使用

2つ目の特徴は、「研修に実ビジネスでの課題とデータを使っている」点です。同社では、研修のための仮データを使わずに、受講者は自組織の課題をそのまま研修プログラムの中で使い、課題解決につなげています。

松野氏は「課題解決のために重要なのは、観察・仮説・検証ならびに考察意思決定というデータを用いたビジネスを進めるプロセスだ」と話します。同社ではこのプロセスを重視し、CRISP-DMというデータ分析のフレームワークに基づいた各研修プログラムなどを行っています。
※CRISP-DM(Cross-Industry Standard Process for Data Mining):データ分析のためのプロセスモデル。「ビジネスの理解」「データの理解」「データの準備」「モデリング」「評価」「展開」のプロセスでデータ分析を行う。

ビジネスデータサイエンスの基本プロセス
2023.3.1 塩野義製薬(株)「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2023」講演資料より抜粋



具体的には、CRISP-DMに沿って、参加者が抱える実ビジネスの課題に向き合い、最終的に提案としてまとめていくという半OJT型の研修プログラムで、データサイエンス部員が講師、メンターとして二人三脚で課題に取り組んでいます。テーマとしては「当局照会事例のデータベース化」や「イベント登録に関する因子分析」などの例が挙げられました。

受講者の属性と取り組みテーマ例
2023.3.1 塩野義製薬(株)「SHIONOGI DATA SCIENCE FES 2023」講演資料より抜粋

データサイエンス部員が内製で研修を実施

3つ目の特徴は「内製で研修を実施している」点です。研修を外部委託するのではなく、データサイエンス部員が研修を行っています。それは、受講者に自ら教えることで、データサイエンス部員にとっても学びになると考えているからです。

研究や生産などのさまざまな部門で、受講者はいろんな悩みを持っています。松野氏は、「データサイエンス部員がメンターとして関わる中で、どういう悩みがあるか、どういうビジネスの課題があるのかを話し合うことで、メンター側も非常に多くの知識を得ており、自分の知識も掘り下げるいい機会になっている」と話します。

実ビジネスとして継続できるデータサイエンス教育を

同社では、研修後も実ビジネスとして継続できるようにするため、研修の最終発表時にはマネジャーである受講者の上長も参加していると言います。

セミナーを通して、松野氏は「ビジネスにおけるデータサイエンスは、プログラミングありきではなく、まずビジネスを正しく見つめて、仮説と検証のサイクルを回し、それをビジネスのアウトプットにつなげていくのが大切」だと示しました。

最後に松野氏は、「製薬業界の激しい環境変化の中、高度な意思決定をするためにデータ活用の必要性はますます高まっています。マネジャー・リーダー・リテラシー各層別の教育を組み合わせることによって、データドリブン型ビジネスへの変革を実現していきたい」と締めくくりました。