【コラム】第8回 プロモーション効果を最大化するにはどうしたら良いのか?

【コラム】第8回 プロモーション効果を最大化するにはどうしたら良いのか?

これまで製薬企業のマーケティングやセールスに関する人材育成等のサポートに携わってきた中で、製薬企業の方からさまざまなご質問をいただいてきました。この連載では、わたしたちがトレーニングの際などに聞かれるシンプルかつ根本的な医薬品マーケティングに関する質問にお答えしたいと思います。第8回は「プロモーション効果を最大化するにはどうしたら良いのか?」がテーマです。
(トランサージュ株式会社 代表取締役 瀧口 慎太郎)

Q:プロモーション効果を最大化するにはどうしたら良いのか?
A:プロモーションプランを現場に伝えたら想定通りの結果が生まれるわけではない。十分にプロモーションの効果を発揮させるためには、「売上」という最終成果が出る前に、事前に定めたプロモーションの実施指標と戦略指標を継続的に測定して、迅速(アジャイル)に適切な修正を行うことが重要である。

<ポイント>
①プロモーションの実施指標と戦略指標は、プロモーションを計画する時に予め目標値を決めておくこと
②プロモーションが開始されたら、継続的にその指標をモニタリングして、ブランドチームメンバーで共有すること
プロモーション展開上の課題が生じた際には、ブランドチームでアジャイルに解決策を考察して適切な対応を図ること

コロナ禍によって終焉したSoV

2020年に始まったコロナ禍がようやく落ち着きを見せ、サラリーマンの勤務風景や学生たちの登校風景、休日の外出や旅行、イベントでの声出し、など人々の活動が2019年以前のカタチに戻ろうとしているように見えます。そんな中、MRの活動は必ずしも以前同様に戻ることはなさそうです。

その理由のひとつに、コロナ禍の中で発展したデジタルチャネルの有用性を知った顧客の認識変化があります。訪問規制やデジタルチャネルの浸透は以前から徐々に進んでいましたが、コロナ禍によって一気に浸透しました。このチャネルの急速な移行によって、多くの医師が欲しい情報を自ら積極的に収集するという行為の有意義さを体験しました。

結果として、コロナ禍以前と比べるとMRへの依存度/期待度は低下し、顧客にできるだけ多く面談することで製品関連情報を脳裏に残すという従来のSoV手法に役割の終焉を告げることになりました。これを良い契機と捉えるならば、消費財などではとっくの昔に終わりを告げられていた“プロダクト・アウト(良い製品を作れば売れる、というT型フォードを象徴とするマーケティングの考え方)”からの転換期を製薬産業でも迎えることができる、つまり、新しい試みを試すことができる時期が来たのだ、と考えることもできます。
*Share of Voice:競合企業や競合製品・サービス間における広告出稿量やメディア露出量のこと

プロモーションで大切な2つの選択

製品がターゲットとする顧客に利用されるためには、まずはその相手に「この製品を使ってみようか」と思ってもらわなければなりません。プロモーションは、ターゲットとする顧客にその瞬間を作るための働きかけと言えますが、具体的な働きかけを考えるためにまずは「何を伝えるか」「どのように伝えるか」という2つの選択が重要になります。

「何を伝えるか」は、ブランド・メッセージあるいはキー・メッセージにどんな言葉を選ぶか、という選択です。メッセージというと、どうしても製品特長に引っ張られることが多くなりますが、もう一度プロモーションの意味を考えてみてください。製品を使って欲しい相手は、製品特長を連呼されたからと言って魅力を感じるでしょうか。場合によっては「しつこいな」「もういいよ」と遠ざけられてしまうリスクはないでしょうか。

痛みをとる、マーカーの値を下げる、など製品が作り出す直接的なベネフィットや効果などだけではなく、以下のように、訴求できる切り口の裾野は限りなく広がっています。

  • 顧客が製品を使用する場面での有用性
  • 小児/高齢者、特定の合併症を持つ患者さん/合併症のない患者さん、小児科医/産婦人科医、などターゲットとする顧客に特徴的な要素への合理性
  • 製品提供している企業/トップのフィロソフィや価値観との同質性
  • 競合製品との差異


こうしたさまざまな要素から最適な要素を選択して言葉で表現したものが、メッセージになります。

「どのように伝えるか」は、媒体・メディアの選択を意味します。デジタルテクノロジーの発展は、この選択に大きな影響を与えました。

SoVが今まで通りに有効でなくなったことは先述の通りですが、MRやメディカルアフェアーズといった人的メディアが消えたわけでも有効でなくなったわけでもありません。プロモーションの実践には、要員も時間も予算も必ず伴います。考えたことの全てをできるわけではないので、自ずと選択する必要があります。デジタルチャネル“も”含めて、どう効果的・効率的にプロモーション手法を選択するか、は重要な要素です。

デジタルや人的アプローチも含めて統合的にメディア活用を考えることは、これからのマーケターの腕の見せ所と言えるのではないでしょうか。

ゴール到達まで上手にリードするためには効果測定が重要

大きなリソースをかけて実践するプロモーションなのですが、起こりがちな誤解が「売上結果だけを追う」という、ある意味で放任主義的な成果主義です。もちろん戦略ゴールには売上という目標も含まれるでしょう(断定形にしていない理由は、ペイシェントセントリシティを追及する組織では売上をゴールに置かずに、代わりに使用患者数やアウトカムを改善できた患者数を置くケースも増えていると理解しているためです)。

放任主義的成果主義とは、プロモーションの実行部隊に任せて結果が出ることをじっと待っているマネジメントやマーケティング部門の姿勢を指しています。いざ全国的にプロモーションを展開し始めたら、計画段階でいかに数多くの顧客への調査や聞き込みを行なっていても、想定していなかった顧客の反応から課題が発生することは確実に想定内のことです。

課題が発生した時に、プロモーションの実行部隊であるMRやDX担当に「もっと相手に伝わりやすく短いメッセージで伝えてみろ」とか「相手の都合を良く考えて配信設定しろ」などと叱咤を繰り広げることが、必ずしも無意味とは言い切れません。ただ、より効果的にプロモーションを展開するためには、結果が生まれる前に短い周期で継続的な効果測定をして、適切な修正を図ることが重要です。

プロモーションの効果を測る「実施指標」と「戦略指標」

効果測定の指標としては、「実施指標」と「戦略指標」の2つがあります。

「実施指標」には、例えば以下が含まれます。

  • メッセージの伝達/配信回数
  • イベント開催回数/参加人数
  • メール配信開封率
  • ランディングページへのアクセス回数


これは計画したプロモーションをどれだけ実施できたか、どれだけそこに反応があったかといった実施結果を示すものです。

プロモーションを始めたら、あらかじめ設定しておいた週単位や月単位の実施指標計画に対してどの程度実施展開できているかを確認して、計画より少なかった時に、どのセグメントでなぜ少ないかを考察して適切な対応を取ることが重要になります。

「戦略指標」は、以下のような、プロモーションによって変化する認識の推移が中心です。

  • プロモーション後の顧客による製品やメッセージへの認知率
  • メッセージへの合意度や好感度
  • 使用意向率


実施指標と比較してある程度長めのスパン(例えば3ヶ月後、半年後など)で計画を立てておき、計画と結果との差異を見ながらプロモーション量やチャネル、メッセージの微調整などの修正を図ります。

クロスファンクショナルでのブランド・チームによるアジャイルな対応

展開時の課題はさまざまな点で噴出します。

例えば「エリア別に見ると計画に対する活動進捗のばらつきが大きい」「全体活動量は目標以上なのにターゲット顧客に対しては見劣りしている」「活動量は想定通りだが製品認知度やメッセージ合意度が上がってこない」「自己投薬製剤の保管に関する想定外の不便さがリピートのハードルになっている」などです。これらの課題に対しては当然ながら迅速な対応が望まれますが、個々の課題において主管が異なり、部門間調整に手間取ることがしばしばです。

こうした問題の解決のためにおすすめなのが、製品ローンチ前からブランドの成長に中心的に関わる社内の主要な部門の方々で組織するブランド・チームを立ち上げて、目標や想定される課題への対応の考察を共有しておくことです。そして、ローンチ後はブランド・チーム会合を定期的に開催し、展開の進捗状況や指標の確認、個々の課題の共有と具体的な解決策の考察を関係者が同時に行うことで、課題認識のズレや調整のための時間浪費などを避けることもできます。

展開時の課題に対していかに迅速(アジャイル)に対応し修正を図ることができるかという点は、特にデジタルプロモーションの利用が進む現代において戦略ゴール到達のための喫緊の課題であると言えるでしょう。

プロモーションのベースとなる戦略シナリオは、顧客を見つめることから

最後に、プロモーションを考える際に一番参考になる情報について改めてお話ししておきたいと思います。

この連載の第4回でも取り上げた通り、優れたプロモーションには「戦略シナリオ」が一番重要だと考えています。プロモーションは、ターゲット顧客の頭の中にブランド・ポジショニングで計画したイメージを持ってもらうための働きかけです。いままで使っていたモノに変えて自分たちの製品を使っていただくという行動の変化を生むことが、プロモーションの役割です。

具体的な戦略や打ち手考察のためのあらすじ=戦略シナリオ

したがってプロモーションを考えるためには、ターゲット顧客のどんな行動を変えたいのか、その行動変化を生むためにはどんな認識を変えなければいけないのか、という基本的な”あらすじ”を考えなければ始まりません。

この“あらすじ”こそが戦略シナリオで、ターゲット顧客の課題に始まり、課題を解決できる自社製品独自の特徴(バリュー・プロポジション)が何で、どのポイント(行動変化を促すための力点=レバレッジ・ポイント)で、どんな行動に変化してほしい(期待行動目標)のか、の4点セットです。

戦略シナリオを描くために重要なことは、基本に戻りますが、顧客をしっかり見つめることです。

ここ数年、Patient Reader®の分析結果を利用した製薬企業向けワークショップを開催する機会がとても増えました。このワークショップでは、患者さんの投稿を読んでいただくことからスタートします。いくつもの投稿を読むという行為は、何人もの患者さんのストーリーを擬似体験することにも似ていて、結果として患者さんの経験や想いに共感することができるためです。共感ができると、その疾患における診療上の大事な課題を掴み取ることが容易になります。

逆に言うと、患者さんへの共感ができていないと、製薬メーカー視点または医師視点の課題ばかりが浮かび上がってしまい、本当に横たわっている課題に辿り着けないといったことにもつながります。

課題が明確になると、その課題解決の方向性を思い付くまでに、そんなに時間を要しません。この課題解決の方向性を具体化したものがプロモーションで、優れたプロモーションはこのように顧客課題を見つめることから生まれる、と確信しています。

共感~考察~応用ワークショップ


今回で、この連載企画は終了です。これまでわたしの拙いコラムをお読みいただいた皆さまに、改めて感謝を申し上げます。もし医薬品マーケティングやソーシャルリスニングなどにご疑問な点やお悩みのことなどあったら、いつでもお気軽にお声がけください。
これからの皆さまの益々のご活躍を祈念申し上げつつ、本連載を終了とさせていただきます。


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