製薬業界マーケティング/DX最新動向まとめ 2025年7・8月版

昨今、医療・製薬業界でも、業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)やデジタルマーケティングに注力する動きが多くなってきました。本記事では、2カ月に1回、各製薬企業のプレスリリースより、最新製薬マーケティングやDXの取り組みをピックアップ。マーケティング、プロモーション、DXについて、業界全体の最新トレンドや、他社がどのような動きをしているのかを把握できます。今回は、2025年7・8月を対象に最新動向をまとめました。
※調査対象の企業は2025年5月にIQVIAより公開された23年度販売会社ベース企業売上ランキング(期間:2024年4月~2025年3月)の上位20社。50音順にリストアップ
- <アストラゼネカ 大阪・関西万博 市民公開講座>「心臓フロンティア~心不全ゼロの未来へ~」を7月30日に開催
- アストラゼネカ、マントル細胞リンパ腫(MCL)の総合情報サイト「MCLライフ」をオープン
- 肺高血圧症患者さん・ご家族のためのウェブサイト「肺高血圧症コンパス」を開設~前向きに病気と向き合うための情報を提供~
- フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病患者さん・ご家族のためのウェブサイト「フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病 情報サイト」を開設
- 大塚製薬、北海道大学と共同で包括的な「ひきこもり家族教育支援プログラム」の提供を開始
- eMind、東北大学、大塚製薬 てんかん診療をサポートするシステムの社会実装を目指し、「てんかんスマート医療共同研究講座(第Ⅱ期)」を開始
- 減酒治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)※1」を2025年9月1日に販売開始
- Johnson & Johnson、8月1日世界肺がんデーに肺がん患者さんとご家族のための「Value of Time」キャンペーンを開始~その1分1秒が、患者さんの生きる希望になる~
【2025年7・8月サマリー】
- 希少疾患・難病に特化した専門情報サイトの強化
製薬企業が希少疾患や難病患者向けの専門性の高い情報提供サービスを強化している。
アストラゼネカはマントル細胞リンパ腫(MCL)患者向けに「MCLライフ」をオープンし、検査・治療から医療費助成制度まで包括的な情報を提供。MSDも立て続けに2つの希少疾患向けサイトを開設し、肺高血圧症患者向け「肺高血圧症コンパス」では患者のニーズに沿った導線設計を重視し、フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病向けサイトでは情報が少ない希少疾患について病気の仕組みから遺伝学的検査まで詳細に解説している。
これらのサイトは単なる疾患情報の羅列ではなく、患者の状況やニーズに応じた情報整理と、欲しい情報にすぐアクセスできる導線設計を重視している点が特徴的である。
- デジタル治療アプリの保険適用拡大と社会実装が加速
デジタル治療の実用化が着実に進展している。
沢井製薬は株式会社CureAppが開発した減酒治療補助アプリ「HAUDY」の販売を開始し、アルコール依存症治療領域で国内初の公的医療保険適用を実現した。同アプリは患者用スマホアプリと医師用Webアプリで構成され、非専門医でも効果的な治療を可能にすることで患者の治療アクセス向上を目指している。大塚製薬は東北大学との「てんかんスマート医療共同研究講座(第Ⅱ期)」を開始し、AIによる予測技術を活用したてんかん診療サポートシステムの社会実装を視野に入れた研究を推進。また、アストラゼネカも大阪・関西万博で「心臓フロンティア~心不全ゼロの未来へ~」をテーマとした市民公開講座を開催し、AIやウェアラブルデバイスによる予防医療の普及に取り組んでいる。
今後もデジタル治療が多様な疾患領域に適用範囲を拡げながら、実際の臨床現場での活用を前提とした実用的なソリューションへと発展していくとみられる。
- 患者だけでなく家族・支援者を含む包括的なサポートへ
患者だけでなく家族や支援者を含めた包括的なケアアプローチが本格化している。
大塚製薬は北海道大学と共同で「ひきこもり家族教育支援プログラム」をアップグレードし、VRによる具体的場面体験と2D動画・学習ブックを組み合わせた包括的な教育プログラムを提供開始した。ヤンセンファーマは世界肺がんデーに「Value of Time」キャンペーンを開始し、患者が家族や大切な人と過ごす時間の価値を可視化する動画や、患者と医療従事者のコミュニケーション活性化ツールを順次展開予定である。
治療やケアの対象が患者だけでなく、その家族や支援者まで広がり、患者を取り巻く環境全体をサポートする取り組みが重視されている。
【各社プレスリリース抜粋】
■アストラゼネカ株式会社
<アストラゼネカ 大阪・関西万博 市民公開講座>「心臓フロンティア~心不全ゼロの未来へ~」を7月30日に開催
2025年8月1日
アストラゼネカは、「心臓フロンティア~心不全ゼロの未来へ~」と題した市民公開講座を、「健康ハートの日」制定40周年の節目に、大阪・関西万博(英国パビリオン)にて開催。
「心不全を知る・防ぐ・治す 〜AIとゲノムがひらく医療の未来〜」と題した講演では、一般社団法人 日本循環器協会の代表理事で、国際医療福祉大学・東京大学 教授の小室一成氏が「高齢化が進む日本は“心不全パンデミック”の状態で、心不全患者さんは増加しています。しかし、心不全は予防や対策が可能な病気です。多くの方が疾患に関する正しい知識を持ち、日頃から適切な生活習慣を身につけ、心不全にならない、患者さんなら繰り返さないことが大切です。また、AIによる心電図診断サポートやウェアラブルデバイスによるモニタリングなど、医学研究によるイノベーションの有効活用が重要です」と説明。さらに、「見えない心臓の不調が“見える”未来へ 〜AIと私たちが築く、やさしい医療〜」と題したトークセッションも行われた。
アストラゼネカは、循環器疾患領域のパイオニアとして革新的な医薬品を提供するとともに、心不全における早期診断・早期治療介入の普及を目指して、これからも意欲的に活動していくとしている。
https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2025/202508011.html
アストラゼネカ、マントル細胞リンパ腫(MCL)の総合情報サイト「MCLライフ」をオープン
2025年8月28日
アストラゼネカは、マントル細胞リンパ腫(MCL)の患者さんやご家族に向けたMCLの総合情報サイト「MCLライフ」(https://www.az-oncology.jp/mcl-life/)をオープン。愛知県がんセンター病院長である山本 一仁先生の監修、および悪性リンパ腫全国患者会である一般社団法人グループ・ネクサス・ジャパンの協力のもと制作した本サイトでは、MCLはどんな病気かをはじめ、検査、治療などについてわかりやすく紹介するほか、患者さんやご家族から多く寄せられる質問について専門医がQ&A形式で回答する「よくある質問」、療養生活を支える医療費の助成制度や困ったときの相談先について紹介する「療養生活のサポートは?」など、患者さんやご家族が主体的に病気と向き合い理解を深めることで、前向きな療養生活を送っていただくために役立つ情報を提供する。
アストラゼネカは、MCL患者さんとそのご家族のよりよい療養生活の実現に貢献する、わかりやすく確かな情報の発信にこれからも努めていくとしている。
https://www.astrazeneca.co.jp/media/press-releases1/2025/202508281.html
■MSD株式会社
肺高血圧症患者さん・ご家族のためのウェブサイト「肺高血圧症コンパス」を開設~前向きに病気と向き合うための情報を提供~
2025年8月28日
MSD株式会社は、肺高血圧症の患者さんとご家族のための新しいウェブサイト「肺高血圧症コンパス」(https://www.ph-compass.jp)を開設。肺高血圧症(PH)は原因となる疾患に応じて大きく5つに分類されるが、そのうちの肺動脈性肺高血圧症(PAH)と慢性血栓閉塞性肺高血圧症(CTEPH)は予後不良と言われており、いずれも厚生労働省の指定難病(難治性呼吸器疾患)に認定されている。
本サイトでは、PAHとCTEPHを中心に、以下のような情報を提供している。
- イラストを交えてわかりやすく解説/知りたい情報に素早くたどり着けるQ&Aコーナー
- 肺高血圧症患者さんの声/患者さんと医師による座談会
- 患者さんのニーズに沿ったデザインと導線設計
デザインについては、「治療に希望を持ちたい」「肺高血圧症ってなんだろう?」など、サイトを訪れる方の状況やニーズに沿って情報を整理し、欲しい情報にすぐにアクセスできるように導線を設計している。
MSDは、肺高血圧症患者さんと家族のニーズに応えられるよう情報提供活動に努めるとともに、今後も肺高血圧症患者さんとご家族に寄り添い、よりよい未来に貢献できるよう全力で取り組んでいくとしている。
https://www.msd.co.jp/news/product-news-20250828/
フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病患者さん・ご家族のためのウェブサイト「フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病 情報サイト」を開設
2025年8月29日
MSD株式会社は、フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病の患者さんとご家族を支援するための新しいウェブサイト「フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病 情報サイト」(https://www.vhl-info.jp)を開設。
フォン・ヒッペル・リンドウ(VHL)病は、VHLという遺伝子に異常(変異)が生じることによって引き起こされる難治性の希少疾患。VHL病を発症すると、脳、脊髄、網膜、膵臓、腎臓、精巣といったからだのいろいろな部位にがん・腫瘍ができるようになる。
患者さんがアクセスできる情報も決して多くはない中、本サイトは、病気の仕組みから診断基準、検査と治療の流れ、遺伝学的検査などの情報をわかりやすく提供しており、今後も最新の情報をアップデートしていく。
MSDは、VHL病患者さんと家族のニーズに応えられるよう情報提供活動に努めるとともに、今後もVHL病患者さんとご家族に寄り添い、よりよい未来に貢献できるよう全力で取り組んでいくとしている。
https://www.msd.co.jp/news/product-news-20250829/
■大塚製薬株式会社
大塚製薬、北海道大学と共同で包括的な「ひきこもり家族教育支援プログラム」の提供を開始
2025年7月1日
大塚製薬は、北海道大学大学院医学研究院 神経病態学分野精神医学教室 加藤隆弘教授と共同で、既存のFACEDUO「ひきこもり家族支援プログラム」をアップグレードし、包括的なプログラムの提供を開始したことを発表。
2024年2月に提供を開始した本プログラムは、VR(仮想現実)で具体的な場面の体験を通して、家族がひきこもり状態を見極める方法を学ぶことができ、家族が「自分自身の視点」と「お子さんの視点」の両方から同じ場面を体験することでコミュニケーションを図るうえでの気づきを促し、家庭内における当事者との関係性改善をサポートする。北海道大学大学院医学研究院の協力を得て、家族支援の重要性と具体的な方法を学ぶトレーニング動画と冊子など一連の資材も活用できるコンテンツが加わり、ひきこもりの家族に対する包括的な教育支援の展開が可能となった。
プログラムは、2D動画と学習ブックを使って、家族支援の重要性とひきこもり支援の5ステップの理論を学ぶパートと、VRを活用してコミュニケーションの方法を学ぶパートの2つで構成。支援者が当事者と向き合うために必要なスキルを実践的に学べるよう設計されている。
大塚製薬は、「FACEDUO」を通じて、当事者やご家族・支援する方々が抱える課題を解決するため、今後も新たなコンテンツの開発を行っていくとしている。
https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2025/20250701_1.html
eMind、東北大学、大塚製薬 てんかん診療をサポートするシステムの社会実装を目指し、「てんかんスマート医療共同研究講座(第Ⅱ期)」を開始
2025年7月3日
株式会社eMind、東北大学大学院医学系研究科および大塚製薬は、「てんかんスマート医療共同研究講座(第Ⅱ期)」にて、てんかん患者さん向けのスマートフォンアプリ「eMind for Medical Research」を用いた共同研究を開始したことを発表。
2022年10月に設置された「てんかんスマート医療共同研究講座(第I期)」では、eMindが保有する、デジタルデバイスから得られるデータを用いたAIによる予測技術(特許 第6841466号)をてんかん分野に応用し、てんかん患者の身体的・精神的・社会的側面を支援することを目的に研究。今回開始された第Ⅱ期研究は、第Ⅰ期の研究成果を踏まえつつ、大塚製薬のデジタルソリューション推進部門とも連携をしながら、より社会実装を視野に入れた応用研究活動を実施し、患者さんの体験価値向上を目指したシステムの継続的な開発・検証を進めていく。
本研究の成果を元に、てんかん患者さんのQOL向上に貢献すべく、テクノロジーを活用したてんかん診療をサポートするシステムの社会実装を目指す。
https://www.otsuka.co.jp/company/newsreleases/2025/20250703_1.html
■沢井製薬株式会社
減酒治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)※1」を2025年9月1日に販売開始
2025年8月27日
沢井製薬は、株式会社CureAppが開発・薬事承認および保険適用を取得した減酒(飲酒量を減らすこと)が治療目標となりうる患者さんを対象とした減酒治療補助アプリ「HAUDY(ハウディ)」の販売を2025年9月1日(月)より開始。アルコール依存症治療領域で国内初※2の公的医療保険適用となる。
HAUDYは、スマホアプリの「患者アプリ」とWebアプリの「医師アプリ」の2つで構成される。患者は日々「患者アプリ」を使い、飲酒記録、個別化された学習・行動を実践し、飲酒習慣の修正を行い、医師は「医師アプリ」に反映された患者さんごとのデータや心理社会的治療の支援コンテンツを確認。心理社会的治療をアプリで補助することにより、非専門医でも効果的な治療を可能にし、患者さんの治療へのアクセス向上が期待される。
9月1日には、一般向けのAUD(アルコール使用症/アルコール使用障害)疾病啓発サイト「AUDアルコール相談室(https://aud-sodan.jp/)」も開設されている。
※1:販売名:CureApp AUD 飲酒量低減治療補助アプリ
※2:株式会社CureApp調べ(調査年月:2025年8月、調査範囲:製造販売承認および保険適用を受けたアルコール依存症および減酒治療アプリ)
https://www.sawai.co.jp/release/detail/000904.html
■ヤンセンファーマ株式会社
Johnson & Johnson、8月1日世界肺がんデーに肺がん患者さんとご家族のための「Value of Time」キャンペーンを開始~その1分1秒が、患者さんの生きる希望になる~
2025年8月1日
Johnson & Johnson(日本における医療用医薬品事業の法人名:ヤンセンファーマ株式会社、以下「J&J」)は、2025年8月1日の世界肺がんデーに、肺がんと診断された患者が、家族や大切な人と過ごすかけがえのない時間への希望を持ち続け、未来を思い描きながら治療に臨んでほしいとの想いから、「Value of Time」キャンペーンを開始。また、「Value of Time」キャンペーンのコンテンツを提供していくサイト(https://innovativemedicine.jnj.com/japan/value-of-time)も公開した。
今後、本キャンペーンの進展とともに、患者さんの1分1秒の価値を可視化する動画や、患者さんと医療従事者双方のコミュニケーションを活性化し治療に対するシェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)を支援するツール、肺がん治療とともに生きる患者さんの声など、順次展開していく予定。
J&Jは、肺がん治療におけるリーディングカンパニーとして、SDMの浸透を図り、日本国内だけでなく、世界のSDMや患者さんに資する情報を提供していくとしている。
https://innovativemedicine.jnj.com/japan/press-release/20250801