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メルクバイオファーマのチャットボット導入事例 ~社内DX推進からマーケティング活用まで~/MDMD2023Summerレポート

メルクバイオファーマのチャットボット導入事例 ~社内DX推進からマーケティング活用まで~/MDMD2023Summerレポート

2023年6月に開催したMedinew Digital Marketing Day(MDMD)2023 Summer。本記事では、メルクバイオファーマ株式会社の八木隆行氏とネオス株式会社の宇佐見裕之氏による講演「製薬企業におけるチャットボット導入の実態 ~社内DX推進からマーケティング活用まで~」より、チャットボット検討から運用までのプロセスや導入の効果、今後の展望について紹介します。

ベンダー選定のポイントは「自社開発をしている日本企業」

本講演では、チャットボットを導入したメルクバイオファーマと、チャットボットを提供したネオスの両社が登壇し、チャットボット導入前の課題から選定のポイント、導入効果に至るまで、一連の流れの事例共有がありました。

まずチャットボット導入を検討するに至った経緯として、八木氏は「社員数が減っている中で、いかに効率よく情報提供を行いユーザーのニーズを満たせるかが課題だった。そこで、効率良く画一的な回答を出せるチャットボットに注目した」と振り返ります。

システムを導入する際、まずコスト感が重視されることが多いグローバルカンパニー。さらに、グローバルと同じシステムを導入することを求められる状況で、それを上回る特長を持つチャットボットがあるのか否か、数多くのセミナーに参加して見極めたと言います。

この時、八木氏が選定ポイントとして重視したのが「チャットボットを自社開発しているか」「日本語を自然言語として理解しているシステムか」の2点です。

1点目については、開発を別の企業が担うベンダーに依頼すると、こちらのニーズが開発者まで届きにくいというデメリットが考えられます。一方で、自社開発をしているベンダーに依頼をすれば、開発者と直接話ができるため、その場でニーズを理解しすぐに改善に動いてもらえます。さらにコストダウンも期待できます。

2点目については、日本語は世界中でも難しい言語として知られており、日本語を自然言語として理解できるシステムを作るのであれば、日本のベンダーに依頼するのが一番だと考えたからだと言います。

これに対し宇佐美氏は「我々はまさに国内でチャットボットサービスを自社開発する企業。また、営業と開発の距離が非常に近く、顧客のニーズをダイレクトに反映できる環境があるため、そこを評価いただけたのは良かった」と話しました。

スモールスタートで始め、社内全員でチャットボットを育てる

開発ベンダーを選定後、実際にチャットボットを立ち上げるまでには乗り越えるべき壁がいくつかありました。

まずは、グローバルへのチャットボット導入許可の取得です。グローバルでは既にAIチャットボットが導入されており、それを使わずに日本で新たなチャットボットを導入する理由について説得する必要がありました。

半年近くかけて複数回の説明を行った後に、日本法人で独立したチャットボットを導入することへの許可が下りました。八木氏は交渉成功のポイントとして、IT部門に任せるのではなく、実務部門として交渉の場に参加の上、日本語の難しさなど具体的な説明を行った点を挙げました。

また、新たにチャットボットを導入する場合、構築作業にかかる工数も重要です。導入前は「社内に専門家がいない中、自分たちで運用していくのだから大変だろう」と不安に感じていた八木氏。そこでどうすればスムーズに構築できるかを考えました。

医療従事者や患者が満足して、次も使ってみたいと思ってもらえるクオリティを最初から目指すのは大変です。そこでマインドを変えて、まずは社内でチャットボットを公開し、MRやマーケティング部門のメンバーに医療従事者の目線でニーズを考えてもらい、それを取り込んでいく方法を取りました。八木氏は「チャットボットは赤ちゃんで、社内みんなで育てていきましょう」という考え方を浸透させて社員の協力を仰ぐことが重要、と社内の協力体制の作り方を説明しました。

また、実際に手を動かしてみると、もともと手元にあったFAQをコピーするくらいの作業だったので、1週間に数回、業務の合間に作業する程度でスタートでき、予想よりも苦労は少なかったと言います。

宇佐美氏も「スモールスタートから開始したやり方が大きなポイント。経験則的に当初は150問のFAQがあれば遜色なくボットの回答が得られるというデータもあるので、このように段階的にFAQを増やしていく方法が理想と考える」と補足しました。

紙のFAQ廃止と社内向けレターでチャットボットの利用率を高める

社内に新たなツールを導入すると、社員からはさまざまな反応があるものです。メルクバイオファーマでも賛成・反対意見が出てきました。

例えば、デジタルツールが好きな世代は前向きに受け入れてくれたものの、否定的な方からは「なぜ今まで通りやらないのか」「チャットボットで何でも回答が出てくると、自分で勉強する癖がつかなくなるのでは」という意見も聞かれました。

そのような中で、チャットボットの利用率を高めることに成功した要因としては大きく2つありました。

1つ目は、紙ベースで運用していたFAQを廃止したことです。これは、紙で配布するといつまでも古いものを使う人がいるため、医療従事者に最新の情報が伝わらないリスクを低減することにもつながりました。

2つ目は、定期的に社内向けのレターを出し、FAQのアップデート情報を載せたり、チャットボット利用に関するアンケートを取ったりすることで、認知度を高めたことです。全社一斉メールを出すだけなので、5分程度の作業で認知度を上げることが可能であったと言います。

これに対し宇佐美氏は「チャットボットは使われないと意味がないシステムなので、いかに社内に周知するかが一番の課題になります。今回、ドラスティックに紙を廃止して、すべての情報をチャットボットに集約し、必ずそこで調べるように運用した結果、高い利用率が維持できているのだと思います」と考察を述べました。

オウンドメディアへの導入で医師からの問い合わせ数増加

社内である程度運用実績を蓄積できたため、医療従事者向けとしてのチャットボットの運用を開始しました。

運用をしていく上で、医療従事者の方がチャットボットに質問を入れて回答がなかったときの反応について、何か改善が必要であるとする課題が見えてきました。

「質問に対してそもそも回答がない」のか、「質問が来ることを想定していなくてFAQに実装していないだけ」なのか、区別がつかないところにユーザーはストレスを感じると思われるからです。

そこで、少しでもそのストレスを軽減するために、回答が出なかった場合には問合せフォームを表示して、質問内容を入力してもらうように対策を行った八木氏。その結果、問い合わせフォームからの問い合わせ率が増加し、さらにそのほとんどが医師によるものであることがわかりました。

この話に対し宇佐美氏は「問い合わせフォームから問い合わせが得られると、医師との接点創出のみならずマーケティングデータとしても使える側面があるので、今後の使い方にも期待できる」と付け加えました。

MRからの質問が激減、新たなチャレンジの時間確保に成功

社外向けチャットボット運用開始から1年半経過したメルクバイオファーマでは、MRからメディカルへの問い合わせである「MRエスカレーション」が激減するという効果が生まれました。

八木氏は「これまで、FAQに回答を記載して周知しているような内容も含め、MRからメディカルへの二次質問は多く寄せられてきた。チャットボットの実装により、そのような質問に回答する業務時間が激減した。その結果、メディカル部門である我々が新しい業務にチャレンジする時間が増えた」とチャットボット導入の効果を強調しました。

これからは、デジタルマーケティングの部門と協力し、問い合わせ内容の傾向分析を行い、新しい資材の方向性を探るヒントが得られればと八木氏は次のステップへの期待を寄せています。

宇佐美氏も「チャットボットには時刻データのログが蓄積される。今回、夜中の0時にリリースしたところ、最初のお問い合わせは医師からだった。時間外や夜中に自動応答するボットが活躍するのは、双方にとって良い効果」とチャットボットの効果を補足しました。

講演写真
2023.6.1 メルクバイオファーマ(株)、ネオス(株)「製薬企業におけるチャットボット導入の実態 ~社内DX推進からマーケティング活用まで~」講演の様子

デジタル化の波は止まらない。前向きな姿勢が重要

チャットボットを活用・浸透させた今も、依然として人の温かみは必要であるとする八木氏。現在はチャットボットの回答がない場合に問い合わせフォームで対応していますが、時間内であれば担当者が回答できるようなシステムを拡充したり、その場でアポイント取得を行ったり、高度な内容に対してはMSLを派遣したりする仕組みづくりをしていきたいと今後の展望を語りました。

最後に八木氏は、チャットボット導入を検討している担当者に向けたメッセージとして「チャットボットの導入を検討し始めた当初は、『忙しい中導入できるわけがない』『グローバルを説得できない』という否定的な声が大きかったが、行動を起こせば何とかなる。まずは壮大なものを考えるのではなく、スモールスタートで全員が協力しながらやることが必要。デジタル化の波を止めることはできないので、前向きな姿勢でチャレンジを続けて欲しい」とコメントし、セッションは終了しました。